進化する糖尿病治療法

血圧は「ちょっとだけ高い」でも腎臓病のリスクが高くなる

写真はイメージ
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 腎機能低下による人工透析のうち、4割超が糖尿病の合併症である糖尿病性腎症が原因といわれています。

 糖尿病の人は日頃から、腎機能が低下しないように努める必要があります。

 そのためには、血糖コントロールを良好に保つとともに、血圧管理も非常に重要です。前回のこの連載でも触れたように、高血圧は腎臓病の発症に大きく関与しているからです。

 糖尿病の患者さんから「血圧はそれほど高くないんですが、やはり薬や減塩は必要ですか?」と聞かれることがあります。答えは、「必要です」。血圧に関しては、「ちょっとだけ高い」という人も油断は禁物。そのまま放置すれば、腎臓病の発症リスクが高くなるのです。

 こんな研究結果が発表されています。2016年、中国の北京大学の研究者が世界中の血圧に関する7つの研究を解析。それによると、収縮期(上)の血圧が120~139㎜Hg、拡張期(下)の血圧が80~89㎜Hgであっても、慢性腎臓病の発症リスクが1.28倍高くなるとのことでした。

 日本では高血圧と診断されるのは上140以上、下90以上で、140/90未満は正常血圧となります。循環器病のリスクが最も低い至適血圧は120/80未満で、130~139/85~89は「高血圧ではないが、要注意」である正常高値血圧。ですから、この中国の研究結果では、正常高値血圧までいかない「至適血圧より高い」人も、慢性腎臓病の発症リスクが高いということになります。

 同じく2016年にイタリア・ナポリ大学が発表した研究結果では、高血圧ですでにかかっている慢性腎臓病が悪化する危険性があるとの内容。正常高値高血圧の人は、慢性腎臓病の悪化リスクが1.19倍上がるというのです。

 さらに、腎臓病でない人4万3300人を調査した研究では、上の血圧が120を超えると慢性腎臓病が増え、上の血圧が10上がるごとに慢性腎臓病のリスクが6%増えるという結果でした。

 海外のデータが日本人にそのまま当てはまらない可能性はあるとはいえ、これら複数の研究結果を見逃すわけにはいきません。「血圧がちょっとだけ高い」であっても、腎臓病を発症しないために、対策が必要なことが理解できたでしょうか?

■「フォシーガ」が欧州で承認される

 ところでつい先日、2型糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬のひとつ、フォシーガ(一般名ダパグリフロジン)が、SGLT2阻害薬としては初めて、2型糖尿病の有無にかかわらず、慢性腎臓病の治療薬として欧州で承認されました。

 SGLT2阻害薬は、腎臓にある膜タンパク質SGLT2の働きを抑制するもの。

 食事から摂取した糖質を尿の中に排泄するのを促し、体外に排出する効果があります。体重減少効果が大きいのが特徴で、単剤服用の場合は低血糖も起こしにくい薬です。

 フォシーガを製造販売する製薬会社のアストラゼネカによると、慢性腎臓病ステージの2~4(5段階で評価。数字が大きくなるほど症状が重い)、かつ腎機能の指標であるアルブミン尿の増加が確認された4304例を対象に、フォシーガ投与による有効性と安全性をプラセボ(偽薬)と比較検討した国際多施設共同無作為化二重盲検比較試験では、腎機能の悪化、末期腎不全への進行、心血管または腎不全による死亡などのリスクを、プラセボと比較して低下させたとのこと。

 米国ではすでに、フォシーガは2型糖尿病合併症の有無にかかわらず成人の慢性腎臓病治療薬の承認を取得しており、日本やそれ以外の国では承認審査中です。

 日本での取り扱いが今後どうなるかはまだなんとも言えないものの、SGLT2阻害薬が慢性腎臓病の治療薬として日本でも承認されれば、人工透析に移行する患者さんが減る可能性が大いにあります。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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