コロナ禍は一段落したが…「隠れ疲労」を見逃してはいけない

ひとまず解放されたが…
ひとまず解放されたが…(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの感染が減少し、19都道府県に出されていた緊急事態宣言も解除された。冬に第6波の到来も予想されているが、長く続いた“自粛生活”にいったん区切りがついたことで、会食や飲み会を再開している人も多い。そんな中、気を付けたいのが「隠れ疲労」だ。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏に聞いた。

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 われわれは運動をしたり仕事をした後などに「疲れた」と感じるが、この感覚は実は錯覚だ。運動や仕事くらいでは、エネルギーが枯渇して疲労することはほとんどないという。

「そうしたタイミングで『疲れた』と感じるのは、脈拍、呼吸、血圧、体温、睡眠、緊張といったあらゆる身体・精神活動をつかさどる自律神経に負担がかかり、疲弊するからです。運動や仕事で自律神経が酷使されると、脳は『疲労感』を自覚させようとします。それ以上、体を動かすなどして自律神経に大きな負荷をかけないようにするためです」

 疲労を長期にわたって放置していると、自律神経がパンクして免疫系、内分泌系、循環系の機能に負担がかかり、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病にかかりやすくなる。最悪の場合、心筋梗塞などを起こして突然死につながる恐れもある。つまり、「疲労」というのは、無理をさせないように脳が発する危険信号なのだ。

 しかし、いくら疲れがたまっていても、疲労を感じないケースがある。「自律神経が疲弊し『疲労感』として自覚させるのは、大脳の前頭葉にある眼窩前頭野という部分です。前頭葉は『意欲や達成感の中枢』と呼ばれていて、意欲や達成感を感じると、実際には疲れていても疲労感が隠されてしまうのです。この状態を『隠れ疲労』と呼んでいます」

 コロナ禍が一段落ついた今は、この「隠れ疲労」が蓄積しやすい状況といえる。リモートワークや自粛が当たり前になっていたが、緊急事態宣言が解除されたことで、コロナ前の生活を取り戻しつつある人も多いだろう。通勤や職場での業務が再開され、久しぶりに知人と会食したり、職場のメンバーで飲みに行く機会が増えた。第6波が来るかもしれないから、警戒はしつつも今のうちに自由を楽しんでおこうという人も少なくない。

「しかし、やっと慣れてきた自粛生活から、急に元の生活パターンに戻されると、適応するために自律神経には大きな負担がかかります。通勤再開でそれだけ朝早く起床しなければならない人も多いでしょうし、職場で人と接しながらの仕事は自宅とは違ったストレスがかかります。仕事後に会食が続けばそれだけ疲れがたまりますし、睡眠不足になるケースも増えるでしょう。しかし、そうした疲労感は、通常に戻った仕事への意欲や、得られる達成感によって隠れやすくなってしまう。久しぶりに人と飲食する解放感や楽しさも、疲れを感じにくくさせます。気づいたら疲労が蓄積していて不調が続くといった状態を引き起こす危険があるのです」

■「飽きる」と「面倒くさい」に注意

 隠れ疲労による深刻な事態を招かないようにするために重要なのが、疲労を自覚することだ。サインは2つある。

「まずは『飽きる』ことがあれば要注意。飽きたと感じるのは仕事などで使い続けている特定の脳の神経細胞を休ませてほしいというシグナルで、無視して作業を続けていると、特定の神経回路がどんどん疲弊していきます。また、『習慣が面倒に感じる』のも疲労のサインです。普段は歩いている距離なのに、歩きたくないと感じてタクシーに乗ってしまったり、いつもは楽しんでいる友人や交際相手とのお誘いを面倒くさく感じてしまう場合、隠れ疲労が表面化している可能性が高いといえます」

 隠れ疲労のサインを自覚したら、すぐに対処したい。

「蓄積した疲労を回復させるために何より重要なのが『睡眠』です。寝る90分前にはスマホを見ないようにして、朝には起床したら光を浴び、朝食をしっかり食べる。これらを意識するだけでも、寝つきが良くなり睡眠の質が高まります。そのうえで、仕事は詰め込まず休めるときは休んで適度に“手を抜く”ことをおすすめします。また、会食も週に1回程度にしておくなど、自律神経が適応するまでは無理はしないことです」

 いきなりフル回転は禁物だ。

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