感染症別 正しいクスリの使い方

【腸管出血性大腸菌】抗菌薬の早期使用は日本と欧米で見解が異なる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 気温が高い夏から秋にかけては細菌が増えやすいため、細菌性食中毒の発生件数が増加します。しかし、気温の低い季節でも発生は見られますので注意が必要です。原因となる細菌は数多く知られていますが、その中でも知名度が高い「腸管出血性大腸菌」についてお話しします。

 大腸菌の中でもベロ毒素を産生し、出血を伴う「腸炎」や「溶血性尿毒症症候群(HUS)」を引き起こすものを腸管出血性大腸菌と呼び、代表的なものとして「O-157」「O-26」「O-111」などが知られています。

 中でも、O-157は特に有名です。感染経路は飲食物を介する経口感染がほとんどで、加熱が不十分な肉からの感染例が数多く報告されたことから、多くの飲食店で牛刺しなど生の牛肉の提供が禁止されました。

 通常の細菌性食中毒の潜伏期間が数時間~3日程度であるのに対し、病原性大腸菌感染症は4~8日と長いのが特徴です。症状は、無症候性から軽度の下痢、激しい腹痛、頻回の水様便、さらに、血便とともに重篤な合併症を起こし死に至るものまでさまざまです。

 特に、HUSは深刻です。全身の血管に小さい血の塊(微小血栓)ができることで各臓器がダメージを受け、それと同時に出血を止める血小板が消費されてしまうので出血が起きやすくなる病気で、HUSを発症すると重症化し、致死率は3~5%まで上昇するといわれています。

 日本では、治療のために「レボフロキサシン」や「ホスホマイシン」といった抗菌薬を3~5日程度服用するケースが多いといえます。ただ、抗菌薬投与自体については賛否両論があり、現在でも統一的な見解は得られていません。

 日本は早期の抗菌薬服用に肯定的な意見が多いのですが、欧米では抗菌薬の投与によってベロ毒素放出を増やし、HUSの危険が増大するといった理由により、否定的な意見が優勢です。

 抗菌薬を服用する場合、発症から3日以内の早期に開始するのが望ましいとされています。発症から4~5日が経過しているとHUSの危険が増すため、抗菌薬は服用しないほうがいいとされています。いずれにしても早めの受診、治療が大切です。細菌性食中毒の下痢に対し、市販薬で止めてしまうと細菌が排出されないため回復が遅れてしまいます。便に血が混じっている場合は危険なので、すぐに受診してください。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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