友人、もしくは同僚が失敗して落ち込んでいるとき、あなたはどんな対応を取るでしょうか? きっと多くの方が、「大丈夫だよ」という具合に励ましの言葉をかけると思います。しかし、落ち込んでいる友人が、前向きではなくネガティブ思考の持ち主だった場合、「次があるよ」「気晴らしに遊びに行こう」などと声をかけるのは逆効果になってしまうかもしれません。
米ミシガン州立大学のモーザーらの研究(2014年)では、ネガティブな人に前向きな言葉をかけると、自己矛盾に陥り、逆効果につながることが明らかになっています。「頑張ろう」の一言が、人によっては凶器になりえるというから、考えものです。
実験は、ポジティブ思考かネガティブ思考かを自己申告してもらった上で、71人の女性被験者を対象に行われました。被験者に、「覆面男が女性の喉にナイフを突きつけている」といった危険なシーンの映像を見てもらい、できるだけ楽観的な解釈をするように指示を与えたといいます。
その上で、被験者の脳をスキャンし、血流の反応を調べた結果、ポジティブ思考だと回答した人の血流の反応は、ネガティブ思考と回答した人に比べて、かなり少なかったそうです。つまり、ネガティブ思考の人はあれこれと考え、脳の回転数が上がっているような状況に陥っていることが示されたのです。
そこで研究者たちは、血流の反応の抑制が望ましいわけですから、ネガティブ思考の被験者たちに、「もっと前向きに考えて」と指示を出しました。ところが、その指示を受けて、さらに血流の反応は激しくなったのです。
なぜ、こんなことが起きたのか? じつは悲観的な状況や感情を無理に肯定しようとした結果、脳内で混乱が生じ、脳がオーバーヒートのような状態になってしまったというのです。そもそも人間は、ポジティブな情報とネガティブな情報がある場合、後者を重要視してしまう傾向があります。「自分を守る」という防衛本能が働くため、センシティブになりがち。そういう状況下にもかかわらず、「頑張って」「前向きに考えよう」などと励ましても、悪循環に陥ってしまう可能性があるのです。
情報を修正しようとするための努力が、逆にその情報を強めてしまうことを「バックファイア効果」と言います。ネガティブ思考の人に「もっとポジティブに」と言うと彼らは自分のことを正そうと試みます。しかし、もともとある否定的感情が葛藤を生み出し、さらにダウン思考に陥らせてしまう--。ネガティブな人にアドバイスやエールを送るときは、バックファイア効果を発動させないようにしなければいけないんですね。
世の中には言葉で伝えるよりも、態度で伝えたほうがいいケースもあります。ポイントは、脳に矛盾を与えずに、誘ってみたり、励ましたりする。例えば、芸人さんのコントや動物の映像、SNSではやっている面白動画などをすすめてみる。強制的な言葉以上に、その人を元気づける方法があるはずですよ。
◆本コラム待望の書籍化!2022年11月24日発売・予約受付中!
「『不安』があなたを強くする 逆説のストレス対処法」
堀田秀吾著(日刊現代・講談社 900円)
科学が証明!ストレス解消法