Dr.中川 がんサバイバーの知恵

京大が2年後実用化へ 打率10割!治療効果予測システムの実力

ベストな治療法が見つかる
ベストな治療法が見つかる

 耳寄りなニュースが報じられました。京大などのグループが進めているがんの個別化医療についてです。端的には「治療効果予測システム」と呼ばれます。これが、とても画期的なのです。

 技術のカギとなるのが細胞の培養と解析にあります。京大はその技術を磨いた民間企業3社とタッグを組み、がん患者からがん細胞を採取して培養。そこに複数の抗がん剤を試してみて、どの抗がん剤がよく効くかを確かめてから実際に投与する仕組みです。「治療効果予測システム」のあらましで、2年後の完成を目指すといいます。

 がんの薬の効果予測なら、今でもある。そう思った人もいるでしょう。その通りで、がん遺伝子パネル検査がそれ。がんゲノム医療中核拠点病院やその連携病院などで受けられます。

 遺伝子パネル検査は、発がんの原因となる遺伝子変異を特定しようとする検査で、検査の結果、変異が見つからないケース、見つかってもそれに適した薬剤が見つからないケースが珍しくありません。特定された遺伝子変異に見合う薬剤を選択できるのは、わずか10%なのが現実です。

 京大グループが目指す「治療効果予測システム」はまったく違います。

 培養したがん細胞に使われている薬剤を試して効果のある薬剤を判定するので、打率10割といえるでしょう。

 グループは、大腸がんから研究を進める方針のようです。その大腸がんでは、たとえば抗がん剤の組み合わせとして、FOLFOX(フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン)とXELOX(カペシタビン+オキサリプラチン)がありますが、患者さんごとの効果はやってみないと分かりません。

 しかし、今回のシステムなら、白黒がハッキリつきます。効果判定した治療の順位もつくので、必ず臨床に役立つ結果が得られるのです。

 がんの化学療法は、従来の抗がん剤に加えて、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など新薬が続々と登場。それぞれの使い分けががんごとに細かく決まっていますが、それぞれの効き目は個人差が大きい。効いたらよしですが、ダメなら次を。そうやって最適な薬を見つけると、経済的にも肉体的にも負担が重くなります。

 最適な治療にたどり着くまでの、経済的かつ肉体的な負担を減らす意味でも、今回のシステム開発は大きな意義があるでしょう。

 グループによれば、細胞の採取から予測判定まで1カ月を要すとのことですが、これまでの負担やタイムラグとは比べものになりません。

 それに早期がんの患者が手術時の検体を提出して治療効果予測システムを頼んでおけば、再発や転移などで抗がん剤を使う時はすぐにベストの薬剤を使うことができます。2年後の実用化が楽しみです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事