高齢でもLDLコレステロールを下げると心血管病を防げる コロナ禍で改めて注目

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 長期にわたるコロナ禍で、生活習慣病の管理があらためて注目されている。高血圧、高血糖、高コレステロールといった生活習慣病を抱えていると重症化しやすくなるうえ、日頃の活動量が低下していることでそれらの管理がおろそかになり、心血管疾患の発症リスクの上昇が懸念されている。中でも、高齢者におけるLDL(悪玉)コレステロールに関する議論が活発だという。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

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 コレステロールは全身の細胞膜、ホルモン、胆汁酸などの材料で、重要な役割を果たしている。肝臓でつくられたコレステロールは血液で全身に運ばれ、使われなかった分は再び血液によって肝臓に戻ってくる。このとき、余分なコレステロールが通り道である血管の内側にたまってしまう。

「善玉」といわれるHDLコレステロールは、血管の内側に沈着したコレステロールを取り除いて肝臓に戻る働きを担っているが、LDLは運ぶだけしかしない。そのため、血液中のLDLが増えて値が高くなると、使われないコレステロールが血管の内側に沈着し、動脈硬化を起こす原因になる。

 動脈硬化が進むと、血管の弾力性が失われて硬くなり、血管の内側が狭くなって血液が流れにくくなる。すると、脳卒中、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、末梢動脈疾患といった心血管疾患を発症しやすくなってしまう。

「LDLは食生活の見直しや運動などで数値を改善することも可能ですが、難しい場合はスタチンなどのコレステロール降下薬による薬物治療が行われます。ただ、75歳以上の高齢者では有用性が低いとされ、米国心臓病学会と米国心臓協会のコレステロール管理ガイドラインでは高齢者のLDLコレステロール低下療法は推奨度が低く扱われていました。動脈硬化は数十年単位で進行するため、ある程度進んでしまった高齢者ではLDLを下げてもそれほど効果が見込めないと考えられていたのです。一方、欧州心臓病学会と欧州動脈硬化学会の脂質異常症ガイドラインは、高齢者の治療を支持しているなど、いまも議論が続いている状況です」

■画像診断検査を活用すべき

 そんな中、最近になって「LDL低下療法は、75歳以上の高齢者でも75歳未満と同じように心血管イベントの抑制に効果的」とする研究が世界的な医学誌「ランセット」で報告された。米ハーバード大学医学大学院の研究チームが、24の試験を解析した「CTTC」と、5つの単独試験を合わせた6つの研究論文を対象にメタ解析を実施。その結果、高齢者における主要血管イベント(心血管死、心筋梗塞などの急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建術)のリスクは、LDL値が1mmol/L低下すると26%低かった。これは、75歳未満の場合(15%のリスク低下)と有意差がなく、高齢者でもLDLを下げるコレステロール低下療法は有益であることがわかった。

「この研究では、スタチン治療とスタチン以外のコレステロール低下療法についても解析していて、どちらも主要血管イベントを有意に抑制していました。論文の著者は、『高齢患者におけるスタチン以外の薬物療法を含むコレステロール低下療法の使用に関するガイドラインの推奨を強化するもの』としています」

 日本でも、75歳以上の高齢者についてはLDLコレステロール低下療法などによる厳格な管理は強く推奨されてはいない。しかし、新たな海外の研究を参考にして、今後は高齢者のコレステロール管理についてきちんと確立すべきだという。

「日本では、LDLコレステロールの基準値は140(㎎/デシリットル)未満とされています。しかし、実際には160でも血管に問題はない人もいて、個人差があります。米国のガイドラインを見ると、LDLの値だけでなく血圧などのほかの因子によってリスクが変わってくるため、冠動脈CT検査で動脈の石灰化を確認して判断するよう勧めています。日本でも同様にLDLの値だけを見て判断するのではなく、冠動脈CTや頚動脈エコー検査などの画像診断を併用して動脈硬化の程度を確認したうえで、高齢でも薬物治療が必要なリスクの高い人を選別し、コレステロールの管理を実施するべきだと考えます」

 高齢者の場合、コレステロール管理のための食事指導を行うと、逆に食事のバランスが崩れて栄養状態が悪化してしまう傾向があるという。そのため、高齢者には食事指導を行わずにスタチンを使ったほうが効果的なケースもある。

「ただ、スタチンには筋肉痛や関節痛、まれに筋萎縮や横紋筋融解症といった副作用を起こす可能性があるため、定期的な検査で効果と副作用の程度を確認したうえで、適切に使用する必要があります」

 高齢でもLDLの値が心配な人は一度検査を受けてみてはどうか。

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