Dr.中川 がんサバイバーの知恵

佐野史郎さんがTVで公表 多発性骨髄腫は幹細胞移植の成否がカギ

佐野史郎
佐野史郎(C)日刊ゲンダイ

 俳優の佐野史郎さん(66)が10日のテレビ番組「徹子の部屋」で多発性骨髄腫であることを公表し、話題です。「この年になると体にガタがくると実感している」と語ったように、年間7500人が発症するこの病気の患者の平均年齢は65歳。発症から診断の状況も典型的だけに、報じられた状況からおさらいしてみましょう。

 佐野さんは今年5月、腎機能障害による入院でテレビドラマを降板していました。その原因が、多発性骨髄腫だったということです。

 症状のはじまりは39度の熱に加えて、腰痛もあったとのこと。当時の東京は3月から5月にかけて新型コロナ感染者数が増加していたこともあり、PCR検査を受けたそうですが、陰性に。その翌日の精密検査で、多発性骨髄腫が疑われたといいます。

 多発性骨髄腫は、血液細胞の一つ形質細胞ががん化する病気です。正常な形質細胞は全体の1%未満で、細菌やウイルスを攻撃する抗体を作っています。それががん化して過剰に増えると、「Mタンパク」という抗体を過剰に産生。その抗体は敵を攻撃せず、役に立ちません。それらの余波で、白血球や赤血球など正常な血液細胞の成長が妨げられます。

 その症状の一つが免疫機能の低下で、ふだんは風邪をひかない人も風邪をひいたりします。当初の発熱は、この免疫機能の低下によるものでしょう。がん化した形質細胞は骨に集まって腫瘍を形成することもあり、骨量が減少します。それが生じやすい骨が骨盤や脊椎、肋骨などで、骨の痛みや骨折もよくある症状です。腰痛も、このせいかもしれません。

 前述したMタンパクの断片は、最終的に腎臓に集まり、ろ過機能を障害するため、腎機能障害を起こします。これが3つ目です。

「(発表した)腎機能障害はその通りで、血中の白血球の数値の異常から腎機能の低下が分かり、そこから詳しく調べたところ多発性骨髄腫と判明した」のが診断までの経緯だと語っています。

 佐野さんが経験した症状のほかには、赤血球の低下による貧血や息切れ、血小板の異常による出血などが見られるほか、骨の破壊が進むと、血液検査で血中カルシウム値が高くなり、口が乾くことも珍しくありません。骨粗しょう症と誤診されて診断が遅れることもあり、要注意です。

 がん化した形質細胞が一定量まで増えないと、症状は見られません。無症候性は一般に経過観察で、治療は症候性になってから。治療は、ステロイド剤や分子標的薬、従来の抗がん剤などで、徹底的にがんを叩くのが重要です。

 この治療はとても効果が高い半面、正常な血液細胞へのダメージも大きい。そこで、事前に採取しておいた自分の造血幹細胞を移植できるかどうかがカギになります。その移植の年齢が一般には65歳以下とされます。66歳の佐野さんも、この移植で現場復帰を目指すそうです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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