上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

小腸閉塞で入院 最新の内視鏡検査を体験し身をもって進歩を感じた

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 昨年の11月初旬、小腸閉塞を起こして1週間ほど入院を経験しました。医師から患者の立場になり、あらためて気づかされることがいくつもありました。

 事の起こりは、腹部の違和感でした。朝、コンビニエンスストアで購入したサラダを食べた後、胃がもたれるような感じがありました。「あれ、ひょっとしたら冷たいまま食べたので消化が悪かったのかもしれない……」というくらいのごく軽い症状でした。その日は予定6時間の心臓再手術に臨み、人工弁の取り換えを問題なく終えたのですが、その直後から激しい腹痛に見舞われました。

「これは何かあるぞ」

 そう感じてすぐにレントゲン検査をしてもらったところ、その場で「腸閉塞ですよ」と告げられました。自分でも写真を見てみると、小腸がどこかで詰まってその手前で拡張し、襞が見えている状態でした。腸管が塞がって食べ物や消化液などの内容物が通過できなくなり、痛みが出ていたのです。

 それを見て、即座にイレウス管を入れてもらいました。鼻から小腸までチューブを挿入し、腸管内を減圧する処置のことで、結局そのまま入院となりました。

■アニサキスの疑い

 小腸閉塞を起こした原因は、おそらく「アニサキス」ではないかと言われました。

 サバ、アジ、イワシ、イカといった魚介類に寄生する寄生虫で、アニサキスが寄生した魚介類を生で食べると、8時間から十数時間後にみぞおちの激しい痛み、嘔吐などの症状が表れます。アニサキスが胃粘膜壁に潜り込むと激痛や嘔吐が起こり、腸に進むと腸閉塞になるケースがあります。

 私の場合、検査ではアニサキスは見つかりませんでした。ただアニサキスは、腸内に移動して死んでしまって体外に排出されたとしても、局所でアレルギー反応を起こして腸の壁がむくみ、閉塞して食べ物が通らなくなってしまう場合があるのです。

 思い返してみると、たしかに数日前に生のイカを食べています。土曜の外勤を終えたあと、病院に戻ってやるべき作業がありました。最寄り駅に着いたとき、腹ごしらえしておかなければと思い立ち、たまたま駅前にある回転ずし屋に入り、イカを含めて7皿ほどいただきました。それくらいしか思い当たる節はありません。

 入院翌日には、イレウス管が狭窄部位を通過して腸の腫れも引いているのがレントゲンで確認できました。3日ほどですべての症状は改善しましたが、食事の再開前に、万が一を考えて腫瘍がないかどうかを確認するため、小腸内視鏡検査を受けました。小腸は5~7メートルもある長い臓器で、曲がりくねった状態で腹部に収まっています。そのため、一般的な内視鏡では観察が難しいとされていました。しかし、2000年代に入り、スコープにバルーンを装着し、小腸をアコーディオンのように折り畳みながら挿入するダブルバルーン小腸内視鏡が考案され、観察が可能になりました。

 ただ、小腸は長いうえに壁が薄く、内視鏡の操作を誤ると壁を破いてしまう危険があります。そのため、全身麻酔をして腹ばいになり、動かないようにした状態で、2時間くらいかけて検査をしていきます。初めての経験でしたが、気づいたら検査が終わっていて、何も問題はありませんでした。不具合を起こしていたと思われる潰瘍になっている箇所もきれいに治っていました。

 退院してからは徐々に通常の食事がとれて、排便も罹患前と同様に回復しました。ただ、しっかり治っているかどうか念のため確認しておいたほうがいいと言われ、新たにカプセル内視鏡検査を受けることにしました。こちらも2000年代に入ってから開発されたもので、超小型カメラが搭載された小指の先くらいの大きさのカプセル型内視鏡をのみ込み、画像診断を行います。

 体内に入ったカプセル内視鏡は、腸管の蠕動運動によって進みながら、13時間ほど自動で腸内の画像を撮影します。そのデータは、体にいくつも貼り付けたセンサーを介して、位置情報とともに外部のレコーダーに転送されるという仕組みです。

 カプセル内視鏡は体にとっては異物なので、最後は肛門から排出されてそのままトイレに流します。すごく簡単で手軽な検査でした。大腸を診る場合は事前に下剤を飲んで腸内をきれいにする必要がありますが、小腸は食事をやめるだけでOKなのでなおさらお手軽です。身をもって最新の検査を体験し、医療の進歩をひしひしと感じました。次回も入院してあらためて感じたことをお話しします。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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