Dr.中川 がんサバイバーの知恵

3回目スタート がん患者のコロナワクチン接種前後の注意点

まずは医療従事者と高齢者から
まずは医療従事者と高齢者から(C)共同通信社

 新型コロナウイルスの3回目ワクチン接種が遅れています。政府の計画では、1月末までに医療従事者や高齢者、一般・職域を合わせて1469万人を接種する方針でしたが、25日時点で約263万人。対象者の17.9%で、全人口比では2.1%に過ぎません。

 足元では、変異株のオミクロン株が感染を広げていますから、一刻も早い3回目接種を望む人は少なくないでしょう。昨年末には、全国がん患者団体連合会が、がん患者を含む基礎疾患がある人への3回目接種を前倒しするよう要望書を提出しています。

 政府は当初8カ月としていた2回目接種との間隔を、紆余(うよ)曲折の末、1~2カ月前倒しするよう自治体に求めています。要望が通るかどうかはともかく、がん患者などへの接種がもうすぐ行き渡るのは間違いありません。では、がん患者の注意点は何か。

 がんは、コロナ対策を巡る基礎疾患14分類の一つ「免疫の機能が低下する病気」に該当します。しかし、常に免疫が低いわけではなく、注意したいのは全身に転移がある場合、抗がん剤や放射線などで骨髄機能が低下している場合です。

 転移がある人は感染リスクが高いので、今後、接種券が届いたらなるべく早く接種するのが無難でしょう。抗がん剤や放射線の治療予定がある人は、スケジュール調整が可能なら、治療前の接種がベターです。

 それ以外、たとえば早期がんで治療を終えて経過観察中の人などは、必ずしも感染リスクが高いわけではありませんが、接種しない選択肢はありません。がんの治療中にコロナ感染が見つかると、がん治療を中断し、コロナ治療が優先に。その間にがんが悪化する恐れがないとはいえません。ですから、経過観察中の方も早めに。

 私は3回目接種を受ける前、コロナの抗体量を測定すると、266.5AU/ミリリットルと、日本人を対象にした横浜市立大の調査に比べてかなり低い数値でガッカリ。3回目の接種後は2万AU/ミリリットルと十分な量に増加し、ホッとしています。重症化予防はもちろん、感染予防にも有効だろうと。

 抗体の量は、飲酒習慣がある人や年齢が高い人ほど低くなりやすいことが分かっています。61歳で酒好きですから、低い数値だったのです。私のようなタイプは、ぜひ3回目接種を軽く考えないでください。

 がん患者の場合、ワクチン接種後は一般の発熱や痛み、倦怠感などと異なる副反応が表れることがあります。接種した側のリンパ節の腫れです。そのままPET検査を受けると、本当は転移もなく陰性なのに“陽性”と誤診されることがあるので、腋窩(えきか)リンパ節検査などでPET検査を受ける時は、4~6週間後がよいとされます。

 オミクロンが先行する欧州では、WHO幹部の終息観測も出始めました。もう少しの辛抱ですから、3回目接種をきちんとしてコロナ禍を乗り越えましょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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