最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

母親を亡くした息子が怒りをあらわに…重要性を痛感したACP

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 先日、埼玉県ふじみ野市で、訪問診療中の医師が散弾銃で撃たれて命を落とすという痛ましい事件がありました。心よりご冥福をお祈りしたいと思います。

 同じ在宅医療に従事する者として、他人事ではなく衝撃をもって受け止めると同時に、在宅医療そのものを改めて見直す分岐点になる事件ではと考えたのでした。読者の皆さんはどうお感じになられたでしょうか。

 私たち医師やスタッフは常に患者さんがより良い状態にあることを目指し仕事をしています。そしてそのことを患者さんやご家族も理解し受け止めていただいているものだと信じて疑いませんが、このように思いがけず残念な結果を迎えることもあるということなのです。

 以前、そんな患者さんのご家族との、微妙な関係を思い知った出来事がありました。

 あれは2021年10月ごろ。息子さんと95歳のお母さまの2人暮らしのお宅でした。

 息子さんはいつも笑顔で出迎えてくれ、私たちとの関係は良好と言えるものでした。お母さまは尿路感染症を繰り返し患い、息子さんからは毎日4~5回、LINEや電話で状態が伝えられるという状況が続いていきます。もちろんその都度お返事はするのですが、時に深夜や繁忙時には、申し訳ないなと感じながらも、長いご連絡に対してお返事が数行になることもしばしばありました。

 そしてそれから2カ月後の年の暮れ。徐々に食事が細くなり、お母さまは静かに旅立たれていかれました。

 残された息子さんもさぞかし私たちと思いを一つにして、全力投球でやり切ったものと思っていたのですが、突然、息子さんが私たちに怒りをぶつけてこられたのです。

「今まで我慢してきた。大丈夫、様子を見ようと言われるままにしてきた。どうせ死んでしまう患者は、一生懸命診ないと思っていたら、案の定メールの返信も短くなってきていたし。もうどうでもいいのか!」

 思いがけない言葉に戸惑うばかりです。

 あの時もう少し早い時期から、悪い知らせに関して明確に息子さんと情報を共有し、いざそういう時が来たらどのようにすればいいか、どんな気持ちか、事前にお話しするべきだったと反省しました。

 そして、患者自らが望む療養や看取りのあり方など、生前の意思表明を家族と一緒に事前に明確にしておく人生会議(ACP)を作成することも有効だったのではと……。

 このACPはまだまだ一般に浸透しているとはいえません。この意思表明もご家族の覚悟を促すきっかけになり、看取った後のショックからくる怒りや、不安を少しでも軽減できるのではと考えています。

 いずれにしても患者さんとご家族の体だけでなく、心も健やかなるために、より一層、邁進することがこれからの在宅医療には求められるのではないでしょうか。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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