最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

Zoom導入で訪問診療の移動をしつつ顔を合わせての会議が可能に

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ご存じの通り、当院は訪問診療のクリニックです。

 1日に5~6人くらいの先生を筆頭に、各3人1組で1チームとなって訪問診療を行っています。診療しているのは都内16キロ範囲内と比較的広いため、少しでも効率よく各家庭を訪問できるよう、スケジュールは分刻みです。

 朝9時5分には当院を出発し、診療終了時間18時ギリギリまで患者さんのお宅にいるといったことはざらで、医師も医療スタッフもほぼ診療所にいないことが珍しくありません。すると、顔を合わせての申し送りや問題解決のカンファ(会議)が難しくなってしまいます。患者さんが薬を飲まないとか、ご家族が介護疲れをしているとか、文章で情報の共有をしているのですが、朝礼や夕礼時のちょっとした雑談から得られる情報の中に重要な改善点や貴重なヒントが隠れているケースも多いのです。

 移動しながら、なんとか顔を合わせてのカンファができないか? そこでオンラインの導入を試みたわけでした。ただ、これまで使ったことがあるパソコンメーカーの電話システムや、携帯電話の多者間通話など、いろいろなツールを試してみたものの、どうしても通信が安定せず、音が割れたりしてスムーズな会話になりません。

 やはりオンラインでのカンファは難しいのか……。そう諦めかけていたところ、たまたまご一緒した名古屋のクリニックの方が、「同じような悩みを抱えていたのですが、解決しました」とおっしゃるではないですか! どうやって解決したかというと、オンラインツール「Zoom」によって、です。コロナ禍の今でこそ広く知られるようになりましたが、当時はまだまだ珍しい存在。それをいち早く使い始め、問題はすべてクリアしたとのこと。

 さっそく我々も導入したところ、それまでの苦労がウソのようになりました。一方通行で話すだけだった会議が双方向になりスムーズ。現在は、いつでもどこでも誰でもがカンファに出席できるようになり、スタッフ間での情報の共有化がよりしやすくなりました。その日担当した少数のスタッフだけが患者さんを支えるのではなく、医院全体で常に支えられるようになったのです。夜間の申し送りも「Zoom導入以前」はメールで共有していたのが、口頭で申し送りができるようになり、メールでは伝わりにくかった空気感・ニュアンスなどが伝わるきめ細かな申し送りができるようになりました。

 在宅診療では日々患者さんやご家族の気持ちが揺れます。私たちは、その微妙な気持ちの変化を大事にしながら、患者さんやご家族に寄り添い診療方針を決めるのですが、朝昼夜と時間帯を気にせず口頭で申し送りできるようになったのは非常に大きい収穫です。

 この一連の出来事で、在宅医療という医療サービスも、新しい技術によってより便利で使い勝手の良い身近な医療へと改善されていく可能性を秘めていると、強く思いました。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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