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腸内細菌が免疫チェックポイント阻害薬の効果をアップさせる可能性

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「腸内細菌叢(腸内フローラ)」と、いろいろながんに対して効果のある「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」との関係が注目されています。がん患者にICIが効くかどうか、患者の便の細菌を調べることで分かるのではないかというのです。

まだ研究段階での途上の話ですが、便を調べてみて、腸内に多様な菌種が存在する場合はICIの有効性が高いこと、そしてもし抗生剤を投与していた場合はそれによって腸内フローラが変化し、ICIの効果が減弱するのではないか--といった報告がなされています。

 また、腸内フローラそのものよりも、その代謝産物が血中で免疫細胞に作用することでICI効果が高められる可能性も指摘されています。つまり、腸内フローラとICI治療との関係が少しずつ分かってきているのです。

 腸内細菌は、菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なく張り付いていて、腸内フローラを形成しています。およそ1000種類、100兆個で1.5~2キロもの細菌が腸内に共生しているといわれます。細菌叢は口腔内でも形成されていますが、口腔内には酸素が存在するため、好気性の細菌が大半を占めています。腸内フローラでは嫌気性菌が中心です。

 腸内フローラの主たる形成パターンは、離乳期から小学校低学年の時期につくられるといわれていますが、生涯を通じて変わらないものではなく、環境因子や年齢とともに変化します。しかし、個人個人で特異的なものであり、簡単には変化しないことも分かっています。

 健康な人の腸内フローラは、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌が20%、悪玉菌が10%、残りの70%は日和見菌で形成されています。日和見菌というのは、状況によって善玉を助けたり悪玉を助ける働きをする菌種です。

 善玉菌は乳酸や酢酸などをつくり出し、腸内を酸性にすることにより悪玉菌の増殖を抑えて腸の運動を活発にし、食中毒の原因菌や病原菌による感染の予防、発がん性を持つ腐敗産物の産生を抑制する腸内環境をつくります。また、善玉菌は腸内でビタミンB群、ニコチン酸や葉酸などを産生し、体の免疫機能を高めたり血清コレステロールを低下させる効果も報告されています。

 体の健康には、腸内にビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌がしっかり存在することが大切で、善玉菌を増やすオリゴ糖や食物繊維を十分に摂取することが健康維持に役立ちます。

■大腸がんにも関係

 がんに関しては、ある特定の腸内細菌が大腸がんの腫瘍微小環境(腫瘍=がん細胞の周囲を囲む微小環境で、免疫細胞、線維芽細胞、リンパ球などの正常細胞や生体分子などから構成される)の腫瘍免疫応答を制御している可能性があると報告されていて、腸内フローラをコントロールすることで、がんの治療効果を上げることが出来るのではないかと期待されています。

 免疫細胞は「骨髄」の中で生まれて血液やリンパ液を通り全身を巡っていますが、その免疫細胞の約70%は「腸」に存在しています。消化管は口から肛門までひとつなぎになっているので、細菌やウイルスなどの外部から入り込む異物と関わることが多い場所です。中でも、さまざまなものを吸収する腸は、有害な物質を体に侵入させないために免疫細胞が豊富に存在していると考えられています。骨は体を支えるだけではなく、また腸は栄養を吸収するだけではないのです。

 われわれの免疫システムには、異物を排除するための「アクセル」と「ブレーキ」が備わっています。異物と戦うために働くアクセルに対し、ブレーキは異物を排除する働きが強すぎて自分の体を傷つけてしまわないようにするためにあります。このブレーキの働きが、逆に免疫細胞からがん細胞を保護している=免疫細胞ががん細胞を攻撃しないようにさせてしまっているのです。

 そんなブレーキを抑えて、免疫システムががん細胞を攻撃するように働かせる薬がICIです。がんに対する免疫療法として登場したICIは、もしかすると腸内フローラをコントロールすることで、効果を高めることが出来るようになるかもしれません。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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