独白 愉快な“病人”たち

大腸がんと闘う漫画家ひるなまさん「検査画像の“サイン”にピンときました」

ひるなまさん
ひるなまさん(自画像=本人提供)
ひるなまさん(漫画家/40歳)=大腸がん(横行結腸)

 ウサギのイラストで失礼します。出身や顔出しを一切NGにして活動している漫画家です。

「大腸がん」がわかったのは2019年の秋でした。それまで便通にはあまり問題はありませんでした。ただ、もともと生理痛が重くて、11歳の初経からずっと月に1~2週間は腹痛で寝込む生活を送っていました。

 病気が判明した頃は一日中、空腹感があって、お腹が鳴るのに食べるとすぐに満腹になるという症状が日常化していました。単に年のせいだと思っていたのですが、じつはそれが大腸がん末期の自覚症状だったのです。

 腸粘膜には痛覚神経がありません。だから症状の有無を異常として自覚できていなかったのです。そこに「明確な自覚症状のない病の恐ろしさ」があります。

 病院に行ったきっかけも、生理がいつもより重かったからでした。毎月、腹痛、胃痛、頭痛、吐き気、倦怠感、下痢、発熱という月経困難症フルセットなのですが、そのときは吐き気のタイミングや痛みの強さ、痛い場所の違いを感じました。でも、血液検査も腫瘍マーカーもCTも異常なしで、点滴だけして帰されました。

 その後、痛みは治まったものの、心配性の夫が「明日、別の病院に絶対に行け」と言うので、ネットで見つけた近所の小さな胃腸科クリニックを受診したのです。すると、触診だけで異常を察知した院長先生は、すぐさま大きな病院に電話をし、検査の予約を取ってくれました。その時点では「お腹に何かある」ということしかわかりません。

 胃カメラで胃に異常がないことを確認したうえで週明けに紹介された大病院へ行くと、お腹の検査と手術準備を同時並行でいく段取りになっていました。造影剤を使ったCTや血液検査、心電図、肺機能検査でヘロヘロだったうえ、帰宅後には一日下剤を飲んで、翌日には注腸造影検査で腸内の画像を撮影しました。

 その直後、画像を見ながら説明を受けたとき、腸の一部が極端に細くなっている「アップル・コア・サイン」があってピンときました。大腸がんと関連があることを、以前に仕事で調べたことがあったのです。5センチ以上の腫瘤が横行結腸を圧迫しているとのことでした。がん確定はまだでしたが、「腫瘤が何であれ、手術は必須」と言われました。

 翌日に患部の組織を採取して1週間後にがんが確定。手術日はさらにその1週間後でした。

 大腸の6割と周辺のリンパ節、見える範囲の腹膜播種をすべて切除しました。腹膜播種は、大腸のがんが腹腔内に飛び散って腹膜に付着し成長したがん転移のひとつ。腹膜には痛覚神経があるので、術後はお腹全体が焼けるように痛くて、硬膜外麻酔(自分でボタンを押すと背中の管から体に入る強力麻酔)を使い切り、さらに追加してもらったくらいつらかったです。

■一時は腹膜播種のコントロールに成功

 そんな状態からリハビリに励み、11日目に退院し、1カ月間の体力回復期間を経て抗がん剤治療がスタートしました。3日間の点滴と11日間の休養という1クールを24回(1年間)です。吐き気、味覚障害、口内炎、手足のしびれ、下痢と痔、爪の脆弱性、肥満、脱毛、肌荒れ、倦怠感……副作用が山ほどありました。

 その甲斐あって、予後不良と言われる腹膜播種のコントロールに成功し、一時は末期がんの看板を下ろしたんです。でもじつは再発しまして、また末期がん患者として治療中です。

 月に2~4回通院し、抗がん剤の点滴と、服用薬を今は8種類くらいもらっています。そのうちの2種類は整腸剤、2種類は吐き気止め、2種類は痛み止め(頓服)です。

 がんについて明るく話せるのはポジティブなのではなく、無常観による諦めが強いだけかもしれません。どうせ人はいつか死ぬのだから、どうせ運や偶然には勝てないのだから、どうせ矮小な人間ごときが世界のすべての要素を知りつくし計算しつくし努力しつくして常に完璧な結果に満足しつくすことなどありえないのだから……。だから期待しすぎずほどほどに楽しく頑張ろう、そんな感じで生きております。

 コロナ禍で検診や受診を控える方も多いでしょうが、読者の方には頃合いを見てちゃんと検診に行ってほしいと強く言いたいです。あとがん保険も、億万長者でもない限りは、数百円のオプションでもいいので入っておくといいと思います。私も保険がなければ、今ごろ金銭的理由で治療を妥協していたかもしれません。

 この経験を本にすることが治療を乗り越える前向きな原動力でした。むしろ「本にしてやる」という気負いがなければ、前向きに乗り切れなかったかもしれない日もありました。

 今の生きるモチベーションは、正直なことを言うと「おいしいゴハン」です! 元気なうちにこの世のおいしいものは思いつく限り食べつくしてやるぞと思っています。最近、おいしいと思ったのは友人が送ってくれた「粕取り焼酎」。はい、お酒も飲んでます!

(聞き手=松永詠美子)

▽ひるなま 生年月日非公開。印刷出版の仕事をしながら趣味で漫画を執筆。2019年に「陰の間に花」(芳文社)でBL漫画家デビュー。20年から「末期ガンでも元気です~38歳エロ漫画家、大腸ガンになる」とした闘病の記録をwebコミック「COMICポラリス」で連載スタート。21年に書籍化(フレックスコミックス)された。

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