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【レジオネラ肺炎】病原菌の特定には「水」に関する情報が重要

写真はイメージ
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 肺炎の原因菌として、肺炎球菌やインフルエンザ菌、モラクセラ菌などさまざまな細菌が知られています。これら一般細菌による肺炎とは別に「非定型肺炎」というものがあるのをご存じでしょうか? その原因になる細菌には、マイコプラズマ菌、クラミジア菌、そしてレジオネラ菌などが挙げられます。非定型肺炎の原因菌は、肺炎治療でよく使われるペニシリン系やセフェム系の抗菌薬が無効であるため注意が必要です。

 今回は非定型肺炎のひとつである「レジオネラ肺炎」についてお話しします。

 1976年に米フィラデルフィアで在郷軍人集会が開かれた際、参加者と周辺住民221人が原因不明の肺炎にかかりました。一般の抗生剤を使った治療が行われたのですが、結局、34人が死亡しています。

 このとき患者の肺から多数発見された細菌は、在郷軍人(Legionnaire)にちなみ「Legionella pneumophila」と名づけられました。この集団感染事例は、在郷軍人会の大会会場近くの建物の冷却塔から飛散したエアロゾルに起因していたとされています。

 レジオネラ菌は、自然界(河川、湖水、温泉、土壌など)に生息している細菌で、ヒトが生活する環境でも、大量の水をためて利用する場所で繁殖することが知られています。温泉や循環式浴槽などに使われる水の中でも繁殖し、それを吸い込むことによって感染します。温泉施設などでレジオネラ菌による集団感染が発生したニュースを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

 家庭内では、加湿器での菌の繁殖にも注意が必要です。いずれの場合も水をつぎ足して使用するのではなく、毎日、水を入れ替えて容器をしっかり洗浄・乾燥させることもレジオネラ菌の繁殖予防に有効です。こうした「水」に関するエピソードは、病原菌の特定にとって大切な情報になりますので、心当たりがある場合には担当医にも伝えましょう。

 重症化するケースも多いレジオネラ肺炎ですが、ペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬が無効なため、治療にはニューキノロン系やマクロライド系などの抗菌薬を用います。

 次回は同じ非定型肺炎のひとつである「マイコプラズマ肺炎」についてお話しします。

荒川隆之

荒川隆之

長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長、薬剤師。1975年、奈良県生まれ。福山大学大学院卒。広島県薬剤師会常務理事、広島県病院薬剤師会理事、日本病院薬剤師会中小病院委員会副委員長などを兼務。日本病院薬剤師会感染制御認定薬剤師、日本化学療法学会抗菌化学療法認定薬剤師といった感染症対策に関する専門資格を取得。

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