新型コロナウイルスの流行で変化したことはいくつもありますが、そのうちの一つが「日帰り腹腔鏡手術」の需要が増えたことです。
病院側の理由としては、コロナに感染した患者さんのための病床確保、医師・看護師など医療スタッフの確保、さらにはコロナ感染対策によって、予定していた手術が取りやめにせざるをえなくなったこと。
患者さん側からも、「緊急性がないのなら、今は病院で入院して手術をするのは控えたい」といった要望が増えました。一方で、手術が必要ということは、放置して良くなる病気ではないのですから、患者さんとしては「入院以外で治療できるなら……」という気持ちがあるわけです。
当クリニックで数多く日帰り腹腔鏡手術を行っている脱腸(鼠径ヘルニア)、盲腸(虫垂炎)を例に出して具体的にお話ししましょう。
これらの病気はしばらく放っておいても問題ないケースが少なくありませんが、一定数は、前触れもなく急に腹痛を引き起こし、緊急入院あるいは緊急手術になる可能性があります。
もしその時、救急搬送された病院がコロナの感染症患者さんでふさがっており、手術ができない状態なら、場合によっては生命に関わります。コロナの終息はまだ見えないどころか、より感染力の強い株に置き換わってきています。今後、医療情勢が悪くならないとは言えません。いかなる病気であっても、適切なタイミングで治療を受けた方がいいことは、言うまでもないでしょう。
脱腸や盲腸の手術は、無事に終われば全身的な負担は少ないものの「入院した方が、何かあったときに安心だから」という意識が医師も患者さんにもあり、日本ではほとんどの方が入院して治療を受けてきました。
しかし欧米では、脱腸や盲腸は日帰り手術が当たり前。腹腔鏡手術では、わずか5ミリの細いスコープを使うため、治療時のキズを小さく抑えられます。具体的には、腹部に通常3カ所、直径3~5ミリの穴を開ける程度。だから、体への負担や痛みが少ないのです。
さらに、麻酔薬も進化し、覚醒までの時間が短くなりました。実際、手術後、平均15分ほどで歩け、1時間ほどでクリニックを出ることができます。
私たちは、2015年11月から19年12月までに当クリニックで行ったすべての脱腸日帰り腹腔鏡手術(術式は「腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術=TAPP法」)1408例の短期成績や安全性を検討しました。要旨としては、日帰り成功率は99.8%と良好な成績で、死亡・後遺症とも0例。
薬剤アレルギーやぜんそく発作という予期せぬ合併症で入院となった患者さんが0.2%。その他の合併症はいずれも軽症で治癒しているという内容で日本臨床外科学会雑誌に収載されました。
なお、本報告は日本語文献初の大規模研究として優秀論文賞を受賞しています。
日帰りで手術できるなら、日帰りで。本連載で、みなさんに日帰り手術の正しい知識をお伝えしたいと思っています。
手術は日帰りでここまでできる