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教師にも銃を…公衆衛生の敵でも米国はなぜ銃を捨てられない?

追悼に訪れ花をたむける少女
追悼に訪れ花をたむける少女(C)ロイター

 米テキサス州の銃撃事件で小学生19人と教師2人が射殺されました。ところが、こうした痛ましい犠牲が繰り返されても、CDC(米疾病対策センター)が「銃による暴力は公衆衛生を著しく損なっている」と宣言しても、さらにはアメリカ人の過半数がもっと厳しく銃を取り締まるべきと考えているにもかかわらず、銃規制は一向に進みません。

 アメリカでは5月後半に大きな銃撃事件が2回も起き、29人が亡くなりました。マスシューティング(4人以上が犠牲となる銃撃)は2019年に417件だったのが、21年は693件にまで急増しています。

 特に今回2回の容疑者はいずれも18歳の男性で、使われたAR-15という半自動式ライフルは合法的に入手したもの。戦争で使う武器を18歳が持てるというのも驚きですが、個人同士の売買では多くの州で身元調査が不要であることが問題視されています。メンタルを病んでいても入手できてしまうからです。

 日本人には当然に思える規制さえできない理由は、多くのアメリカ人が銃の所持は自衛の権利と信じており、「人を殺すのは銃ではなく人だから銃を減らしても意味はない」と考えているからです。そのため銃撃が起こるたび、銃の売り上げが伸びます。事件のあったテキサス州では、教師にも銃を持たせようという声が再び高まっています。

 状況をより複雑にしているのは政治的な分断です。銃を規制すべきとするリベラル民主党、自由に持てるべきとする保守共和党と真っ二つに割れていて、銃所持者の多くがトランプ支持者であることもわかっています。

 マスクや人工妊娠中絶などと同様に銃規制も政治案件となり、人の命よりも金と票を多く集められるかが優先になっているのです。保守派の政治家の多くはNRA(全米ライフル協会)から巨額の寄付を受けていて、規制反対派のパワーは推進派を大きくしのいでいます。これが続く限り、銃規制は絶望的という見方が少なくありません。

シェリー めぐみ

シェリー めぐみ

NYハーレムから、激動のアメリカをレポートするジャーナリスト。 ダイバーシティと人種問題、次世代を切りひらくZ世代、変貌するアメリカ政治が得意分野。 早稲稲田大学政経学部卒業後1991年NYに移住、FMラジオディレクターとしてニュース/エンタメ番組を手がけるかたわら、ロッキンオンなどの音楽誌に寄稿。メアリー・J・ブライジ、マライア・キャリー、ハービー・ハンコックなど大物ミュージシャンをはじめ、インタビューした相手は2000人を超える。現在フリージャーナリストとして、ラジオ、新聞、ウェブ媒体にて、政治、社会、エンタメなどジャンルを自由自在に横断し、一歩踏みこんだ情報を届けている。 2019年、ミレニアルとZ世代が本音で未来を語る座談会プロジェクト「NYフューチャーラボ」を立ち上げ、最先端を走り続けている。 ホームページURL: https://megumedia.com

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