60歳からの健康術

眼科編(13)片目が突然、見えなく… 「一過性黒内障」は脳梗塞の前兆

写真はイメージ
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 片方の目が突然見えなくなった。しかし、しばらくしたら元に戻った。年のせいで立ちくらみでもしたのだろうが見えるようになったので問題ない──。多くの人はそう思うかもしれない。だが、その症状の裏には重大病が潜んでいる可能性がある。自由が丘清澤眼科の清澤源弘院長に聞いた。

「眼科医はこうした症状を『一過性黒内障(アマユローシス・フューガクス)』と呼びます。目への血流が一時的に不足したために、片方または両方の目が一時的に見えなくなります。その主な原因は、頚動脈から枝分かれしている眼動脈に血栓が詰まるからです。左右にある眼動脈が同時に詰まることはまれで、症状は片方にだけ表れることが多い。症状が片目なら眼球に、両目なら後頭葉に問題があります」

 多くの場合、一過性黒内障は一過性脳虚血発作の症状の一部であり、脳卒中の重要な前兆だといわれている。

「一時的に目が見えなくなるのはたまたま眼動脈が詰まっただけで、脳動脈が詰まれば話すのが難しくなったり、顔の片側が垂れ下がったり、体の片側がまひしたりするなどの症状を示すこともあります。その原因は高血圧や動脈硬化、脂質異常症などにより血管の内側にコレステロール性の沈着が出来て、そこからコレステロールの破片や血栓が眼動脈や脳動脈を詰まらせるからです。前述の人以外に不整脈、喫煙歴、またはアルコール乱用の病歴がある人などが発症しやすいといわれています」

 似た症状を示すほかの病気には、脳腫瘍、頭部外傷、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、片頭痛、視神経炎、動脈炎などがある。

「目の血管が突然引き締まる『血管攣縮(れんしゅく)』は、激しい運動や長距離走などでも一時的な失明症状が生じることがあるとされています。そのためこうした病気との鑑別診断が必要となります」

 一過性脳虚血発作では治療をしないと3カ月以内に10~15%が脳梗塞を発症するとされ、一過性黒内障も将来的に脳梗塞を起こす恐れがある。その治療には、目の血管の閉塞原因の特定と治療が必要となる。

「高コレステロール値が血栓に関連している場合には脳卒中のリスクが高い。脳卒中は、血栓が脳の血管に詰まり、脳や視神経への血流が止まることで発生します。ですから、最も急を要する治療のいくつかは、脳卒中リスクを減らすことに関連します。例としては、アスピリンなどの抗凝血剤の服用。画像診断で頚動脈のコレステロール性プラークが見つかれば、頚動脈内膜剥離術も検討されます。血圧が高ければ、内服薬での血圧コントロールも行われます。これらの積極的な治療に加えて、在宅治療として揚げ物やファストフードなどの高脂肪食品の摂取制限、禁煙、毎日30分以上の運動、そして糖尿病、高血圧、高コレステロールなどの慢性疾患の管理が必要となります」

 いずれにせよ一過性黒内障が疑われる場合には無視せず速やかに受診することだ。

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