高齢者の正しいクスリとの付き合い方

クスリは正しいタイミングで飲まないと効果が十分に発揮されない

各薬それぞれのタイミングで
各薬それぞれのタイミングで

 病院を受診して薬局でクスリをもらうと、薬袋や説明書には必ず「飲み方」が記載されています。クスリの飲み方のことを「用法」といいます。もちろん飲み薬以外にも用法はありますが、今回は飲み薬の用法、特に「食後」「食直後」「食前」「食直前」「食間」といった食事に関連したものについてお話しします。

 ほとんどの方は「食後」に飲むクスリを“ごちそうさまのすぐ後”に服用しているのではないでしょうか。じつはそれは「食直後」の飲み方で、「食後」とは【食事終了20~30分後まで】をいいます。「食前」は【食事開始20~30分前】です。

 では、「食後」のクスリを「食直後」に服用してはいけないのかと言われると、問題はありません。「食後」の意味を正確にいうと【食事終了直後から20~30分後まで】になりますし、そのほうが飲み忘れもしにくいという方も多いでしょう。

 しかしその逆、「食直後」のクスリを「食後」に飲むのはダメです。たいていの「食直後」のクスリは、食事中に含まれる何らかの成分が体内に入るのを抑えることを目的としています。そのため、食事終了20~30分後=食後に服用してしまうと、クスリの効果が十分に得られなくなってしまうのです。

「食前」にクスリを服用しなければならない理由はいくつかあります。主なものとして、①食事による影響を抑えることを目的としている②食事による影響を受けないようにしている--が挙げられます。

 ①は主に糖尿病の血糖値に関するもので、膵臓からインスリンを出させるクスリは「食前」に服用することで食後の血糖値の上昇を抑えることができます。

 ②はいろいろあって、たとえば脂に溶けやすいようなクスリでは食後に服用すると吸収が良くなりすぎて逆に副作用のリスクが増えてしまいます。クスリによっては、そうした食事中に含まれる成分により効果に影響が出てしまうケースがあるため、それを回避する目的で「食前」に服用する必要があるのです。

 ちなみに「食間」は【食事終了2時間後】のことをいい、この目的も②に準じます。

「食前」のクスリを「食直前」に、あるいは「食直前」のクスリを「食前」に服用することは絶対にやめてください。クスリの効果が最大に発揮される時間を考慮して「食前」あるいは「食直前」が決められているので、時間がずれてしまうと効果が十分に得られないだけでなく、場合によっては副作用の原因となります。

 高齢者で多くの種類のクスリを服用していると、飲み方がすごく複雑だと感じている方もいらっしゃるでしょう。しかし、それぞれのクスリの飲み方にはちゃんと意味があります。それらを理解して、より安全かつ効果的にクスリと付き合っていきましょう。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

関連記事