Dr.中川 がんサバイバーの知恵

NPO製作動画が話題「がんとセックス」妻への配慮とEDの解決策

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写真はイメージ(C)PIXTA

 がんというと、高齢者の病気と思うかもしれませんが、違います。がん患者の3割は、64歳以下の現役世代です。そこに着目すると、治療と仕事の両立だけでなく、妻や彼女との生活の両立も重要なテーマになります。ズバリ、がんとセックスです。

 繊細な内容だけに、がん患者や家族がだれにも相談できずに悩んでいるケースも珍しくありません。そこでNPOキャンサーネットジャパンは、「したい? する? がんとセックス」と題した動画を製作。問題を考える材料となるアニメを公開しています。

 セックスをしていいのか、いけないのか。がん患者は、ここから悩みますが、いけないことはありません。患者やパートナーに性欲があるなら、していい。ただし、がん患者の体は治療の影響を受けることがあるため、セックスのタイミングややり方に注意することが大切です。

 まず抗がん剤の副作用では、血小板や白血球の数が少なくなることもあります。そうなると、感染や出血のリスクが高いため、このときはセックスを避けるのが無難でしょう。

 それらの数値が十分に回復したときが再開となりますが、自己判断は禁物。主治医にセックスを再開していいかどうか確認することです。

 さらに妻が婦人科のがんになった場合、ホルモン治療や卵巣摘出、膣を含む放射線治療などによって、膣の潤いが低下します。夫がその変化を知らずに無理に挿入すると、妻は痛い。ローションを活用するとよいでしょう。

 抗がん剤の治療中やその後は、精液など分泌液に薬の成分が含まれることがあります。いずれかが抗がん剤治療を受けてしばらくは、薬の影響を避けるため、コンドームを使うのが肝心です。

 男性が前立腺がんや膀胱がん、直腸がんなど骨盤内部のがんで手術を受けると、勃起や射精に関係する神経が障害され、勃起や射精が難しくなることがあるほか、放射線や抗がん剤の影響が精巣に及ぶと、性欲が低下することもあります。

 治療の副作用としての男性のED対策は、勃起神経が温存されていればバイアグラやレビトラ、シアリスのPDE5阻害薬が基本です。6~7割に効果があるとされています。放射線治療は確実に神経が残るので特に有効です。

 神経の損傷が大きいと、薬でも勃起の回復が難しい。その場合は、陰茎海綿体注射という方法もあります。勃起にかかわる薬剤をペニスに直接注入する治療法で、どこでも受けられるものではありませんが、泌尿器科に相談するとよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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