28カ国で同時多発的な感染を確認…「サル痘」世界的流行への違和感

サル痘ウイルス(CDC提供・共同)
サル痘ウイルス(CDC提供・共同)

 アフリカの一部の国での風土病だった「サル痘」の感染が、突然それ以外の28カ国で確認された。しかも5月7日の英国での報告から6月2日までの短期間で、だ。ところが、世界保健機関(WHО)は「ウイルスのさらなる拡大が起こる恐れが高い」としながらも、「入院に至るケースは少なく感染が世界的に広がるリスクは中程度」と平静を装っている。この違和感は何なのか。

 サル痘は1970年に当時のザイール(現コンゴ民主共和国)でその存在が報告されてから50年間はアフリカ以外ではほとんど報告されていない。天然痘ウイルスの仲間で感染後の症状も似ているが、ヒト─ヒト感染はめったにないとされてきた。そのサル痘の感染がWHОによると5月7日から今月4日までに27カ国780件の報告が確認されている。内訳は以下の通り。

 英国(207件)、スペイン(156件)、ポルトガル(138件)、カナダ(58件)、ドイツ(57件)、フランス(33件)、オランダ(31件)、イタリア(20件)、米国(19件)、ベルギー(12件)、アラブ首長国連邦(8件)、チェコ・スロベニア(各6件)、アイルランド・スウェーデン・スイス(各4件)、オーストラリア(3件)、デンマーク・フィンランド・イスラエル・アルゼンチン(各2件)、ノルウェー・ハンガリー・オーストリア・モロッコ・マルタ・メキシコ(各1件)。そのほかにリトアニアで1件の感染確認が報告されている。

 これらの国ではまだ死者が確認されていないが、サル痘が風土病になっているアフリカ諸国では今年に入って66人の死亡が確認されている。

 日本をはじめ諸外国では警戒しつつある。ただ、米国疾病対策センター(CDC)も「市中感染が起こる公算は大きいものの、全般的な公衆衛生上のリスクは引き続き低い」と冷静さを装いつつ、医療従事者に感染が疑われる人には検査するよう勧めている。WHОも同様だ。その一方で、WHOは先週、専門家500人以上が参加するサル痘に関する会議を開催している。

■テロの可能性はないのか?

 なぜ感染力が弱いはずのサル痘が、世界中に広がっているのか? ウイルスに詳しい研究者が匿名を条件に言う。

「可能性は2つあります。ひとつはサル痘ウイルスの遺伝子の一部が自然界で変異して感染力を増した可能性です。それならば、もっと大騒ぎになるはずです。もうひとつは考えたくはありませんが、テロの可能性です。サル痘ウイルスは天然痘ウイルスの仲間で撲滅された天然痘に似た症状があり、多くは軽症でありながらも重症化して亡くなることもある。そのため以前からバイオテロリズムに使用されることが懸念されてきました」

 いまの時代に生物テロなんて、と思いがちだが、厚労省研究班が作成する「バイオテロ対応ホームページ」には、バイオテロ関連疾患として天然痘と並び、その仲間であるサル痘も掲載されている。

「このホームページ(以下HP)は医療機関向けにバイオテロ関連疾患の臨床診断や検査方法の情報を提供するためのものとして2008年に整備され、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京五輪などを控えている2016年に一般公開されています。なぜ、撲滅したはずの天然痘がバイオテロ関連疾患とされているかといえば、天然痘ウイルスをすべて廃棄せずに、米国やロシアが保有しているからです。万一にもそれが流出すれば大変なことになります。そのため、天然痘ウイルスを持っていない国の中には、発症すれば似た症状があるサル痘ウイルスを研究しているところがあります。だからこそ、天然痘同様にサル痘も懸念しているのだと思います」(前出の研究者)

 ちなみに同HPには「バイオテロが疑われる状況と対応─天然痘」として、「季節外れのインフルエンザ様症状の流行、天然痘ワクチン接種歴のない若年層を中心に罹患、2~4病日頃、一時解熱傾向となると同時に発疹が出現」「天然痘を鑑別診断に入れ、原則的にワクチン接種歴のある医療従事者が確実な感染防御策のもとに患者を個室隔離して対応する」などが記載されている。

 都内の医師も言う。

「これまでのサル痘の情報の出方をみると、WHОや各国政府の担当者は早い段階でサル痘の感染拡大を察知していたはずです。公表しなかったのは混乱を起こさないためで、公表したのは大丈夫と確信したせいかもしれません。しかし、感染症はどう広がるかは誰にもわからない。本来はヒト─ヒト感染しにくいサル痘が、世界中で感染拡大している異常さを私たちはもっと深刻に受け止めるべきかもしれません」

関連記事