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漢方薬はエビデンスに乏しいという批判的な声も聞くが実際は?

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 日本の医療はエビデンス(科学的根拠)に基づいたものが主流です。エビデンスを取得するために動物実験やランダム化比較試験などが行われ、このうち最も信憑性が高くグレードもトップにあるのがランダム化比較試験になります。

 一方、医療用漢方(医師が処方する保険適用の漢方)は長年の臨床経験をもとにしており、ランダム化比較試験が行われていません。そのため「漢方薬はエビデンスに乏しい」といった批判的な見方が医師の間でも根強く存在していました。これに対応するため、日本東洋医学会は2001年、エビデンス委員会を設立。積極的に漢方薬のエビデンス研究を行い、結果を発表しています。

 しかしながら、漢方薬はエビデンスを解明するのが難しい薬でもあります。たとえば糖尿病を例に挙げると、西洋医学では発病のメカニズムを分析し、インスリンの働きの鈍さによるものであれば、そこにピンポイントに作用する薬を開発し、同じ病態の糖尿病であれば、同じ薬を使います。

王瑞霞氏
王瑞霞氏(提供写真)

 ところが漢方薬では、症状と患者の体質から「証」を判断し、証に合った漢方薬を使います。同じ糖尿病であっても証が異なれば、使う薬も異なるのです。つまり、エビデンスで重視する「同じ病態であれば同じ治療効果が得られる(一般化)」「効果を再現できる(再現性)」に、漢方薬はたやすく到達できるものではないのです。

 加えて、漢方薬は自然由来の生薬を原料としており、生薬の産地や採集時期で含有成分がまちまちの一面があるため、薬の規格の統一化が困難。それに加えて、一つの処方が複数生薬で構成されているため、作用成分などを解明できないこともあり、一般化や再現性に影響を与えます。

 前述の通り、研究者の努力で漢方薬のエビデンスの構築が進んでいます。ただ、エビデンスの得られた漢方薬の大半は「証」を用いない試験に基づくもの。本来の「証」に合わせた処方ではない、西洋医学の薬のような画一的な処方になりがちです。

 反対に、漢方医学に精通した医師が臨床でよく使う薬が、現在の臨床試験デザインに合致しておらず、エビデンスを得ていない、ということはよくあります。しかし漢方薬において、「エビデンスが乏しい=効き目が良くない」というわけでは決してないのです。

▽王瑞霞(おう・ずいか) 日本医学柔整鍼灸専門学校鍼灸学科専任教員。医学博士、中医師、鍼灸師。中国山東中医薬大学卒業。中国北京中医薬大学大学院修了。日本大学医学部医学博士。中国では伝統医学医師資格である中医師の資格を有して、日本では長年、漢方薬、鍼灸の医療現場及び教育に携わる。

王瑞霞

王瑞霞

日本医学柔整鍼灸専門学校鍼灸学科専任教員。中国山東中医薬大学卒業。中国北京中医薬大学大学院修了。日本大学医学部医学博士。鍼灸師、登録販売士。

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