高齢者の正しいクスリとの付き合い方

この世の中に「副作用」のないクスリは存在しない

写真はイメージ
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 副作用というと「悪い作用」というイメージがあるかと思いますが、じつは必ずしもそうではありません。副作用とは、「本来、目的としていたものとは別の作用」を指します。

 少しわかりづらいのでひとつ例を挙げましょう。「血圧を下げる」ことを主目的としたあるクスリを使ったところ、「心拍数も低下して頻脈も落ち着く」ケースがあります。このとき、心拍数を低下させる作用は本来の目的とは別のものであるため、副作用ということになります。実際、クスリの副作用を利用して、症状の改善を目的とするケースも少なくありません。

 副作用の中でも、体に悪影響を及ぼすものを特に「有害事象」と呼び、世間一般で副作用と認識されているものはこちらになります。今回は「有害事象」という意味で副作用という言葉を使います。

 前置きが長くなりましたが、「漢方薬には副作用がない」なんて話を耳にしたことはないでしょうか? じつはこれ、大きな間違いなのです。ずばり言います。世の中に副作用のないクスリはありません。多くの漢方薬には成分として甘草(かんぞう)が含まれており、これには体内のカリウムという成分を少なくする副作用があります。

 クスリが体に合わないことで、アレルギー症状が出る場合もあるでしょう。これも立派な副作用です。副作用には重篤なものと軽微なものがあり、クスリの中には重篤な副作用は持っていないものも確かにあります。ただ、そういったクスリでも軽微な副作用は必ずあります。大事なことなので繰り返しますが、世の中に副作用のないクスリはありません。

 クスリは誰にとっても「異物」に変わりありません。ただし、クスリを使わなければならない人というのは、そういった異物の“チカラ”を使って体の調子を整えなければならない状態でもあります。そして、異物である以上、多かれ少なかれ副作用のリスクは存在します。特に高齢者は、体のあらゆる機能が低下しているため、副作用のリスクは大きくなってしまうのです。

 ここで重要なのは、「われわれ医療従事者もどんな副作用がどんなタイミングで出てくるかはわからない」ということです。そんな無責任な、と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、それが事実ですし、それがわかればわれわれも苦労しません。クスリの説明書にはさまざまな副作用や注意点について記載されていますが、残念ながらそのどれかの症状が出てしまう人もいますし、当然のようにまったく何も出ない人もたくさんいます。

 では、そういった副作用とどのように付き合っていけばよいのでしょうか。次回は、私が患者さんに説明する際に必ずお伝えしている「もっとも大事」で「どのクスリにも当てはまる」言葉とともに、副作用との付き合い方についてお話しします。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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