手術は日帰りでここまでできる

新しい麻酔薬の登場とそれを使い慣れた麻酔科医の存在が重要

写真はイメージ
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 麻酔法の確立なくして外科医療は成立しなかったと言っても過言ではありません。

 だって麻酔なしの手術を想像してみてください。

 痛いなんてものじゃないはず。激痛です。患者さんも痛みに耐えかねて、じっと我慢していられないはずです。そのために麻酔のない時代の手術は、大勢の人の力で押さえつけて行っていたといいますからうなずけます。

 そもそもこの麻酔には、大きく分けて手術中の痛みをとる「鎮痛」と、手術中よく眠れる「鎮静」、そして全身の筋肉の緊張を取る「筋弛緩」という3つの要素があります。

 また麻酔の方法としては、手術する部位だけ行う「局所麻酔」、下半身の感覚を一時的に消失させる「脊椎麻酔」、そして完全に眠った状態で行う「全身麻酔」の方法が取られます。いずれの方法も手術に対応していますが、中でも高度なスキルを必要とされるのが、患者さんにとってもっとも快適な麻酔である「全身麻酔」なのです。

 ちなみに東京外科グループでは、日帰り麻酔のエキスパートが在籍しているために、この全身麻酔を「鼠径ヘルニア」の手術においても採用しています。

 これまでの鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術でも、基本的には全身麻酔が必須でした。しかし20年ほど前に新しい鎮痛剤(レミフェンタニル)と筋弛緩薬(ロクロニウムおよびその拮抗薬スガマデクス)が登場し、麻酔覚醒後のコンディションを大きく変えることになりました。

 手術が終了したら、麻酔は遅滞なく覚めなければなりません。この新しい麻酔薬の登場が今日の日帰り手術を、より安全かつ快適に行うことを可能にしていると言えるのです。

 従来の薬剤はこれら新薬と比べ切れが悪いため、終わってから回復室で休んでいる間にも、呼吸が弱くなってしまったり、なかなか意識が回復しなかったりということがありました。

 それがこの新薬の登場により、そういった術直後のトラブルが皆無となり、実際患者さんからも、「痛みを軽減したいので腹腔鏡(内視鏡)でお願い致しました。これにより術後1時間半くらいの休みで、安心に日帰りで帰宅できました」(60歳代・男性)、「一発で治って余裕の日帰り手術。夢のようです(80歳代・女性)といった声をいただくようになっています。

 これがもしも従来の薬剤のままであったら、日帰り手術の質にかなりのばらつきが生じていたでしょう。

 そしてこの新薬の登場だけでなく、それら薬剤の特性をよく理解し使い慣れている麻酔科医の存在も重要となります。日帰り麻酔を専門とする医師たちは、術後の状態が悪ければ入院させてしまえばいいやという安易な考えを持ちません。

 日帰り手術をとりまく環境は日々変化しています。それは麻酔だけでなくそのほかさまざまなシステムに及びます。そんな日帰り手術が新しい医療のカタチであることを、これからもお伝えしていきたいと考えています。(おわり)

大橋直樹

大橋直樹

日本外科学会認定外科専門医、全日本病院協会認定臨床研修指導医。東京外科クリニックグループでの日帰り手術の件数は2022年4月末日時点で3101件。

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