がんと向き合い生きていく

「子は宝」 小児がんは早期診断・早期治療がとても大切

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 街を歩くと、抱っこ紐で赤ちゃんを胸に抱いた母親を見かけます。いつの頃からか背中におんぶした姿はまったく見かけなくなりました。

 小さな子と手をつないで歩く母親にも出会います。ひとりを抱っこして、歩ける子は手をつないで、2人を連れた母親もいます。

 歩く子に手を振ると、多くの子は手を振って返してくれて、うれしい気持ちになります。たまに怪訝な顔をして見つめてくる子もいます。みんなとってもかわいい子たちです。病気にならないで元気で育って欲しいと思います。

 宗教学に造詣の深い哲学者の梅原猛さんは、「私たちの生命のなかには、永遠の生命がやどり、それが子孫に蘇っていく。自分は死んでも、遺伝子は生きていると考えれば、生命は連続的なものと科学的に考えることができる。この世の生命は受け継がれていくことに救いがある」と話されました。

 まさにその通りです。老人が多くなって、人口が急激に減ってきている日本にとって、子供は希望、夢、社会の宝です。

 しかし、その子供の出生数は減少しています。この2年、コロナ禍もあってか、出生の想定数よりもさらに減っているのです。私たちの夢もしぼんできます。収入が少なくても、安心して出産し、子育てができる社会が必要です。

 人口の減少は、日本の衰退です。もっともっと、ウクライナだけでなく、世界中の大変な状況下にいる方々を受け入れる政策も必要だと思います。難民のためだけではなく、日本のためでもあると思うのです。

 以前、小児科病棟を回診した際、とても大変な毎日を送っている親子が少なくないことを実感しました。私は患者さんに直接関わることはできませんでしたが、入院治療中の医療に関してだけでなく、子供の学習、親の付き添いのための寝泊まりなど、もっともっと社会的な支援が必要であることも教わりました。

■医療機関の連携が重要

 かつて、癌研究会付属病院(現在のがん研有明病院)の院長だった西満正先生は、「いたいけな 小児の癌を治す道 早く見つけん 高齢者癌よりも」と詠みました。

 本当にそう思います。小児のがんは、その発生部位がさまざまであり、また急に病状が進行することもあり、早期診断・治療がとても大切です。

 小児がんには、主にユーイング肉腫、横紋筋肉腫、神経芽腫といった固形がんと、小児白血病、悪性リンパ腫などがあります。個々の病理診断によって治療法は異なります。固形がんでは、初発時の治療が手術のみで十分な場合もありますが、進展、再発した場合では、手術、薬物、放射線治療など、さらには造血幹細胞移植などが行われます。

 国は一定の地域ごとに7ブロックに分けて、15カ所の「小児がん拠点病院」を指定しています。東京都では、小児がんの実績がある病院を「東京都小児がん診療病院」として独自に認定し、都内2カ所の小児がん拠点病院と11カ所の小児がん診療病院による「東京都小児がん診療連携ネットワーク」を構築、連携して医療を提供する体制を整えています。

 大学病院やがん拠点病院の小児科であっても、すべての小児がんを診療できるわけではありません。たとえば、ある大学病院の小児科では脳腫瘍の治療を行える、ある拠点病院では白血病治療を得意としている……といったように、小児がんの中でもそれぞれ専門とする領域があるのです。ですから、がんの疑いがある子供の場合、地域の医療機関とそれぞれの領域の専門の病院との連携が大切になってきます。

 以前、青梅市立総合病院の小児科病棟を見学させていただいたことがあります。その壁はタイルやステンドグラスが使われていて、まるで自然の中にいるような絵画になっており、清潔感があってとてもきれいだったことを思い出します。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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