高齢者の正しいクスリとの付き合い方

納豆を一粒でも食べてはいけないクスリも…効果がなくなる

納豆菌は体内でビタミンKを作り出す
納豆菌は体内でビタミンKを作り出す

 クスリの中には食べ物に含まれている成分との間に相互作用があるものも存在します。使っているクスリと相性の良くないものを知らないうちに食べてしまっている、なんてケースもあるかもしれません。そんなことが起こらないように、今回は食べ物とクスリの相互作用についてごく一部ですが紹介します。

 血をサラサラにする抗凝固薬のひとつ「ワルファリン」というクスリを使っている人は、残念ながら納豆は食べられません。納豆に多く含まれているビタミンKとワルファリンの相性が良くないのです。血液が固まる際にはビタミンKが必要になります。ワルファリンはビタミンKの働きを抑えることで血を固まりにくくするクスリなので、食べ物でビタミンKをたくさん取ってしまうと、効果がなくなってしまうのです。

 ビタミンKは納豆だけでなく、野菜や海藻などにも多く含まれています。しかし、ワルファリンを服用していても、これらは特に食べてはダメとはされていません。むしろ健康のためにもある程度は食べたほうが良いでしょう。

 では、なぜ納豆は食べてはいけないのでしょうか。納豆に含まれるビタミンKの量が多いのもありますが、原因は他にあります。納豆菌が体内でビタミンKを作り出すからです。納豆菌は細菌の中でもビタミンKを作り出す能力が高いことが知られています。しかも、一般的な細菌の多くは胃酸によって死んでしまうのですが、納豆菌は胃酸でも死ぬことはありません。そのため、一粒でも納豆を食べるとビタミンKの影響が長く続くことになるので、ワルファリンを使っている人は絶対に納豆を食べてはいけないのです。

 グレープフルーツジュースにもクスリとの間に相互作用があります。血圧を下げる降圧剤の中には、グレープフルーツジュースに含まれるフラボノイドやクマリン類といった成分によって作用が強くなったり、副作用のリスクが高くなるものがあります。グレープフルーツジュースに含まれる成分がクスリの分解(代謝)を障害してしまうためです。カルシウム拮抗薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などが該当します。

 グレープフルーツジュースと相互作用のあるクスリは、降圧剤以外にも免疫抑制薬、脂質異常症治療薬、抗血小板薬などの中にもあり、受ける影響の度合いもクスリごとに異なります。「グレープフルーツジュースなんてあまり飲まないよ」という方でも、お中元の時期にジュースをもらう機会が増えることも考えられます。そういったクスリを使っている人は、飲む前に何のジュースなのか注意したほうがいいでしょう。

 高齢者はクスリの種類が多い分、こういった食べ物との相互作用のリスクも高くなる傾向があります。いずれにしても、食べ物と相互作用があるクスリがある場合は、クスリの説明書に必ず「○○は摂取しないでください」と書かれています。もし、そうした文章があれば必ず守るようにしてください。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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