世界で急増中の「サル痘」はどんな病気? 日本で初めて感染者確認、WHOは緊急事態宣言

サル痘ウイルス(C)CDC提供・共同
サル痘ウイルス(C)CDC提供・共同

 7月23日、世界保健機関(WHO)が、天然痘に似た感染症「サル痘」について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。欧米をはじめ、世界で感染者が急増していることを受けてだ。日本ではサル痘の集計を始めた2003年以降、サル痘感染者の報告はなかったが、25日、国内初の感染者が確認された。

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 サル痘の感染が判明したのは、都内に住む30代の男性。6月下旬に欧州に渡航、7月中旬に帰国。その後15日から倦怠感があり、25日に都内の医療機関を受診。東京都健康安全研究センターの検査で感染が判明した。欧州滞在中、のちにサル痘が判明した人との接触歴があった。厚労省によれば、男性は発熱、頭痛、発疹、倦怠感の症状があり、都内の病院に入院中(7月26日時点)。状態は安定しているという。保健所は、濃厚接触者の有無を調査中だ。

 サル痘は、天然痘ウイルスと同じ仲間のウイルス、サル痘ウイルスによって引き起こされる感染症だ。自然宿主はアフリカのげっ歯類が疑われている。

 1970年にザイール(現コンゴ民主共和国)で初めて報告され、主にアフリカ中央部から西部にかけて発生してきた。ところが2022年5月以降、欧米、中東、アジア太平洋地域で感染が急拡大。米疾病対策センター(CDC)によれば、累計1万7000件(7月22日時点)の感染が確認されている。

「もともとの流行地でのアフリカでは過去にもサル痘の流行は起こってきましたが、今回の流行のような患者数、地理的な広がりは予想していませんでした」

 こう話すのは、国立感染症研究所(感染研)で長年ウイルス研究に従事し、現在は札幌市保健福祉局保健所医療政策担当部長を務める西條政幸氏(感染研名誉所員)。

 サル痘の人から人への主な感染ルートは、患者の体液や患部との接触。WHOは「サル痘は誰でも感染の可能性があるが、今回の感染拡大のひとつの特徴として、同性との性行為を行う男性(MSM)、とりわけ複数のパートナーと性的関係にある男性に感染が集中している」と述べている。

■咳やくしゃみで簡単には感染しない

 サル痘の症状は、感染初期は発熱、全身倦怠感、頭痛などで、徐々に体表面に水疱性の病変や発疹が現れる。

 西條氏が言う。

「サル痘は、コロナのように咳やくしゃみなどで簡単に感染するものではありません。症状がない段階で感染することもない。症状がある感染者と比較的濃厚な接触をしない限り感染しないのです。ただ、サル痘は大きく分けてコンゴ盆地系統群と西アフリカ系統群があり、後者は相対的に軽症のため、症状に気づかないうちに人に感染させている可能性があります。もしかしたら、今回の感染拡大は、それが関係しているのかもしれません」

 致死率は0~11%と報告されているが、多くは2~4週間で回復する。

「サル痘は、天然痘ワクチンが非常に効きます。私たちの研究では、ワクチン接種後2~3日で軽症化が期待できるとの結果が出ています。濃厚接触者も含めて、ワクチンを打つことで発症を予防でき、発症したとしても軽症化が期待できる。つまり重要なのは、医療従事者がサル痘のような症状がある患者を診た時、行動歴などからサル痘を疑い、しかるべき機関にサル痘の検査を依頼し、陽性であればワクチンを打つ体制を行政が整えること。現段階では、天然痘ワクチンはサル痘のためのものではありませんが、早くに、サル痘感染者が天然痘ワクチンにたどり着く体制を整えることです」

 個人レベルにおいては、まったく心配する必要はないと西條氏。

「感染拡大地域に出張や旅行で出かける人もいるでしょう。しかし前述の通り、容易に感染するものではない。正しい情報を得て、冷静に行動してほしい」

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