末期がん患者を自宅で療養する4つのポイント 在宅診療の名医が解説

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅診療を行い、毎年200人以上を在宅看取りしている医師として、末期がん患者を自宅で療養するための4つのポイントをお話しします。

 1つ目は、介護環境を整備することです。家で重症度が高い患者さんを看るうえで不可欠なのは「介護」です。特に末期がんの方は週単位、日単位での病状変化があり、歩く、食べるが急にできなくなります。それに対応する柔軟で迅速な介護環境の整備が必要になります。

 自力でトイレに行けると、本人が介護ベッドや手すりは「必要ない」と言うかもしれません。しかし、早い段階で医師から病状変化の流れと可能性の説明を受けつつ、数週間先を想定して褥瘡予防のマットレス付き介護ベッドや訪問看護やヘルパーの準備をしておく必要があります。家族が日中に介護できない場合でも、デイサービスやショートステイなど一時的な介護施設の利用、ひとり暮らしなら夜間の巡回介護などがすべて介護保険の範囲内で利用可能です。

「がん末期」という病名がつけば、医療費の上限範囲内で看護師やリハビリも導入できます。介護環境整備を真剣に相談できるケアマネジャーや訪問診療医を見つけることです。

「緩和」を専門としてきた医師を選ぶ

 2つ目は、痛みや苦しみの「緩和」です。最期の時間まで家族の苦しむ姿を見たくないとの理由で、病院や施設への入院を選択されるケースもあります。

 ただ、病院や施設でがんに関わる医師が必ずしも緩和ケアに精通した医師とは限りません。特に特養など介護度が高い患者を受け入れる施設の施設医は、緩和ケアへの専門性が高くない嘱託医の可能性が高い。結果として、困ったときは緩和できず病院へ救急搬送というパターンが多いのです。その意味では末期がん患者の臨床と看取りの経験が豊富な在宅診療医師の方が患者にもその家族にもプラスだと思います。できれば、在宅診療で緩和を専門としてきた先生を選ぶことが大切です。医師が麻薬やステロイド、鎮静剤を上手に使うことで、終末期における苦しみを感じさせず、意識状態も良好に保ちながらギリギリまで家族との幸せな「ゴールデンタイム」を自宅で過ごしてもらうことが可能になります。

思い出づくりは残された家族のためでもある(写真はイメージ)
思い出づくりは残された家族のためでもある(写真はイメージ)
医療・介護はチームで選ぶ

 3つ目は、家族や本人の「精神的な不安感」に寄り添える環境づくりが不可欠です。がん末期では、医療職、介護職の言葉ひとつ、行動ひとつで患者やその家族の精神面に影響が出ます。そのため、緊密な意思疎通が大切です。夜間や休日にバイトドクターを使っている医療機関や24時間体制が取れない訪問看護、土日に連絡がつかない訪問薬局などでは、それが十分ではありません。

 日々変化する本人や家族の気持ちや精神状態に寄り添ってもらうためには、主治医が固定され、すべての職種の24時間体制が取られており、言葉遣いや発するタイミングを選んでもらえる医療介護の「チーム」を選ぶことが大切です。不安な気持ちに対して、カウンセリングなどのサポートが可能な心療内科や精神科もうたう訪問診療事業所は心強い、と思います。

 4つ目は、「生きがい」「家族の価値観」を大切にできる環境づくりです。末期がんでも、難病の方でも患者さんは誰もが人生は一回で、最期の時間まで大切にしたいと感じています。家族もその貴重な時間を介護というストレスを感じるだけではなく、「幸せな時間」という気持ちに転換できることが望ましい。そのためにはいくら技術的に素晴らしい医療人材でも“相性”が悪いと感じたら、すぐに違う医療機関や訪問看護を選び直すことが大事です。

 そして、痛みや苦しみを最期に近い時間までしっかりと取ってあげることで、旅行や車椅子での近くの散歩などをしながら、写真撮影など思い出づくりをすることが大切です。それは、患者本人のためだけではなく、残された家族のためでもあるのです。

(しろひげ在宅診療所・山中光茂院長)

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