がんと向き合い生きていく

小腸はがんが少ない 腸捻転で手術した友人からのメールで浮かんだこと

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 先日、昔からの友人であるYさんからメールが届きました。これまでは年に1回くらい一緒に食事会をしていたのですが、コロナ流行があってここ2年以上は会っていません。電話では、よく長い時間話されるのですが、メールが来たのは初めてです。こんな内容でした。

「急に腹痛があり、救急車で近くのM病院に運ばれました。腸捻転で緊急に手術しました。小腸は壊死部が多く、大腸とつないでどうにか助かりました。痛みはなく、平静ですが、栄養は点滴頼みです」

 突然の知らせにびっくりしたのですが、状況が分からないこともあって、ひとまず「それは大変でしたね。詳しい状況は分かりませんが、だんだん小腸が働いて、食べる栄養を吸収してくれるのを期待したいと思います。早い回復を祈っております」と返信しました。

 おそらく、病室から送ったメールでしょう。

 たしかYさんは数年前も急な腹痛で緊急手術をしたことがあって、その時は「腸には何もなかった」「腸の切除はしていない」「原因はよく分からなかった」と聞いた記憶があります。まずは回復を祈って、またメールか電話が来るのを待つしかないと思いました。

 胃がんで、胃全摘の手術を受けた方が、「医師から『胃はないので、今後は胃がんの心配はなくなりました』と言われた」と話していたことを思い出します。胃全摘を受けた方の「慣れるまでの大変さ」についてはよく耳にします。少ししか食べられない、脂肪の取り方に注意が必要、食後に気分が悪くなるダンピング症候群、下痢……その大変さは当事者でないと分からないことだと思います。たとえば「胃なし会」のように、お互い知恵を絞って意見を交換し、助言し合う集まりもあるようです。

■小腸は体全体の免疫を支配している

 小腸はとても長い臓器です。小腸では、食べ物が通過する過程で必要な栄養を吸収しています。

 そのため小腸の切除は(切除された長さが関係すると思われますが)、胃全摘とは違って、「短腸症候群」と言われる下痢に悩まされることが多く、手術後の栄養の取り方の大変さがあります。長期間、中心静脈栄養を行う場合もあります。

 小腸の切除では、まれですが腸捻転や腸間膜動脈血栓症などで急激に腹痛が起こり、腸管壊死で緊急手術が行われることがあります。Yさんは、その腸捻転が起こったと考えられます。

 実際の開腹手術でも、つらいことはたくさんあります。全身麻酔をかけられたら、もう本人に自覚はありませんが、麻酔から覚めた後、鼻から入れられたチューブや点滴などで、なかなか思うように体を動かせない状態もきついものです。おそらくYさんは、そんなつらい状況でもスマホからメールを打ってくれたのだと思います。本人と担当医、医療関係者との連携で、早い回復を祈るばかりです。

 小腸はがんが少ない臓器です。大腸がんは増えているのに、どうして小腸は少ないのか? その理由は「免疫機能が強い臓器だから」といわれています。その強い免疫機能によって、いろいろな毒性に対処しているのだろうと思います。

 昔は、単に栄養を吸収する臓器と考えられていましたが、体全体の免疫を支配しているのです。ですから、小腸はがんが起こる心配は少ないのですが、他にがんが少ない臓器として思い浮かぶのが心臓です。心臓は横紋筋で構成されていますから、がんだとすると「横紋筋肉腫」が考えられます。ただ、これは非常にまれながんです。また、心臓は体の中で最も温度が高い部位です。がんは熱に弱いこともあって、心臓ではがんの発症が少ないのではないか、ともいわれています。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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