高齢者の中には、「抗凝固薬」と呼ばれる血をサラサラにするクスリを使っている方もいらっしゃるかと思います。目的は、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、塞栓症の予防などさまざまですが、いずれにしても血管内に血の塊=血栓ができないようにして、そういった疾患を予防します。
さて、これらのクスリを処方されたときには、「血が止まりにくくなるのでケガをしないように気をつけてください」といった説明を受けるはずです。あくまで個人的な意見ですが、この説明はあまり適切であるとはいえません。ケガは誰しも突然かつ意図せずにしてしまうものですし、気をつけようがないものといえるからです。もちろん、自分からケガのリスクが高い行動を積極的に選択することは問題ですが、そんな人はなかなかいないでしょう。
そのため、私が説明するときにはこうお伝えするようにしています。
「こういったクスリは血が止まりにくくなっているだけで、決して血が止まらないわけではありません。ですから、出血を伴うようなケガをしたときでも慌てずにしっかり傷口を圧迫してください。少し時間がかかるとは思いますが、必ず血は止まります。もし血が止まらないようであれば、病院に来てください。必ず止めますから。ケガをしないようにするのは難しいです。一番大事なのは出血したからといってパニックにならないことです」
じつは、血をサラサラにするクスリを使っている場合、ケガよりも注意してほしいことがあります。それは、病院や歯科などを受診する際に必ずそういったクスリを使っていることをスタッフに伝えることです。治療や検査の中には出血を伴うものもあります。血をサラサラにするクスリを使っていることがスタッフに伝わっているかどうかは、治療や検査の安全性に直結する重要な情報になります。
治療や検査に向けて一時的に血をサラサラにするクスリを中止する必要があるときは必ず指示がありますので、その場合は指示に従っていただければ大丈夫です。
意外と忘れられがちなのが、歯科を受診するときです。特に抜歯は出血を伴う治療ですので、必ず伝えるようにしましょう。
とはいえ、「そんなの忘れてしまうし、面倒くさい」という方もいらっしゃるでしょう。そのときに活用してほしいのが、やはり「お薬手帳」です。血をサラサラにするクスリはもちろんですが、皆さんが処方されたクスリが記載されているお薬手帳は、安全な医療を受けるためのとても重要なツールになります。ただ、せっかくのお薬手帳も情報が正確でなければ意味がありません。医療機関を受診する際は必ず提出するようにしましょう。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方