Dr.中川 がんサバイバーの知恵

ソフトバンク大関友久投手は精巣がんの手術を告白…大きさは鶏卵ほどに

ソフトバンクの大関友久投手(C)共同通信社
ソフトバンクの大関友久投手(C)共同通信社

 えっ、取り除いてしまって大丈夫なの……。そう思った人は少なくないでしょう。左の精巣がんの疑いで睾丸(こうがん)の腫瘍摘出手術を受けたことをSNSで発表したソフトバンクの投手・大関友久選手(24)のことです。

 一般には、聞きなれないがんでしょう。実際、精巣がんの発生率は10万人当たり1人、男性のがんの1%ほどですが、15~35歳の若い男性のがんとしては最多です。精子をつくる精細管上皮細胞から発生します。

 大関選手は、すでに摘出手術を終えて退院。「早期発見ということもあり、病理検査の結果を見ても、順調に競技に戻れそうです」と投稿。無事な経過が何よりだと思います。

 この精巣がん、ステージ1では5年生存率が100%。大関選手のように転移のないステージ1で発見できれば、治療は手術のみで追加治療もなく、ほぼ完治します。術後は厳重な経過観察は必要ですが、早期に発見できるかどうかがカギです。

 では、どうやって早期発見するか。早期は、痛みのないしこりや腫れが特徴です。通常、いわゆる睾丸の硬さや大きさに左右差はありません。それが精巣がんになると、違いが現れます。しこりはスーパーボールのような硬さ、大きさは鶏卵ほどと表現されることもあるほどです。

 しかし、痛みがないゆえに、自分で触ったり、はっきりと見たりしないと気づきません。入浴中は裸で、洗うときなどに気づきやすいといわれます。また、セックスの最中にパートナーが気づくこともあります。

 進行してリンパ節に転移すると、腹痛や腰痛、肺に転移すると息切れや呼吸困難が発生します。

 精子と卵子が受精すると、精巣と卵巣の区別なく、胎児のお腹の中にあります。妊娠2カ月ごろに男になることが決まると、精巣は成長につれて少しずつ下りてきて、鼠径(そけい)部から体の外の陰嚢(いんのう=睾丸)に収まる経過をたどるのです。

 ところが、100人に3人の割合で、精巣がまだ陰嚢に入らずに生まれることがあります。これが停留精巣で、男児の先天異常としては最も多い。1歳までは陰嚢に下りてくることが期待でき、1歳までの停留精巣の頻度は1%に下がります。停留精巣だと、そうでない人に比べて3~14倍の精巣がん発症リスクといわれるのです。

 また、片方に精巣がんがあると、もう一方に発症する頻度は同20倍以上で、ステージ1でも術後に厳重な経過観察が必要となるゆえんです。親が精巣がんだと同4倍、兄弟が精巣がんだと同8倍です。家族が精巣がんなら、セルフチェックが欠かせません。

 異常があれば、エコー検査で確認。転移は造影剤を使ったCTで調べます。

 皆さんが気になるのは術後の生活でしょう。片方の精巣を切除しても、もう一方が正常なら、セックスもできて子供をつくることもできます。ただし、進行して見つかると、術後に抗がん剤治療を行うため、抗がん剤の影響で無精子症になる恐れがあります。その点でも早期発見が重要です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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