認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

サプリははっきりしたエビデンスが見つかっているものは少ない

WHOは推奨しないと踏み込んだ発言を…
WHOは推奨しないと踏み込んだ発言を…

 認知症対策や記憶力改善のために、サプリメントを活用している人もいるのではないでしょうか? 

 テレビやネットを見ていても、認知症関連のサプリの紹介が実に多い。漢方の生薬を使ったもの、イチョウ葉エキスや青魚に含まれるDHA、EPAといった成分が配合されたもの……。大手製薬会社が販売しているものもかなりあります。

 では、認知症の研究に長年かかわってきた私が、常日頃飲んでいるサプリがあるか? それが、ないんですね。理由は、臨床研究で認知症のリスクを低くするというはっきりしたエビデンスが見つかっているものが、ほとんどないからです。

 認知症の改善に役立つサプリがあればいいと常々思っています。実際、私も研究にかかわったことがあります。たとえば2020年には、ビールの苦味成分である熟成ホップ由来苦味酸(ホップ苦味酸)と認知機能に関する共同研究の結果を発表しました。

 それまでも、ホップ苦味酸がアルツハイマー病への予防効果を示すことは非臨床試験で報告されていました。ただ、ヒトでの効果は十分には検証されておらず、私たちが物忘れを自覚する中高年(認知症ではなく健常者)を対象にランダム化二重盲検比較試験を行ったのです。ランダム化二重盲検比較試験とは、被験者を無作為に被験薬を投与するグループとプラセボ(偽薬)を投与するグループに分け、両群同時に、同じ期間投与し、その結果を見る方法です。

 研究では、ホップ苦味酸が中高齢者の認知機能の中でも特に注意機能、ストレス状態、気分状態を改善することが明らかになりました。

 ホップ苦味酸を活用したサプリの毎日の活用が認知症予防につながることを期待して、ヒトでの作用機序解明や軽症アルツハイマー病患者さんを対象にした効果検証が進められていますが、現段階では、「ホップ苦味酸が認知症を予防する」とはっきり言えるところまでデータは確立されていません。

■WHOは「推奨しない」

 WHO(世界保健機関)はガイドラインでこんなことを述べています。認知症予防において、健康的な食生活を推奨する項目の中です。

「ビタミンB、E、多価不飽和脂肪酸、複合サプリメントは、認知症予防の観点からは推奨されない」

 このガイドラインでは、「運動せよ」「社会活動せよ」などと積極的な発言が多いのに、サプリにだけは「頼るな」と踏み込んだ発言をしているのは目を引きます。

「フランス人はポリフェノールを含む赤ワインをよく飲んでいるので、認知症が少ない」といった話を聞いたことがあるでしょう。「インド人はクミンを含むカレーを食べているので認知症が少ない」というのもありますね。イチョウ葉エキス、青背の魚のDHAやEPAにも、同じような疫学的な研究結果があります。しかし、これらの研究は、被験者が少なかったり、どのくらいの量を摂取しどのくらいの効果があったか、医学的な検証はされていません。

 動物実験の結果ばかりで、「その量は」というと、通常ではあり得ないほどの含有量を服用させた結果、というものもあります。いずれにしろエビデンスは高くなく、効果があるともないとも結論が出せないのです。

「脳にいいかなと思って、サプリを飲んでいるんです」と言われれば、それがよほど高価なものだとか、含有成分が体に害を及ぼしたり認知機能に関連するとはまったく言われていないものでない限り、反対はしません。プラセボ効果ともいえるメンタル面で良い効用を得られることもあるからです。

 重要なのは柔軟性。オールオアナッシングではなく、自分にとってはどうなのか。担当医に相談するのもいいでしょう。ただし、サプリさえ飲んでいれば安心、というのは大間違いです。認知症対策は、脳を健康的に保つ生活習慣が基本だからです。

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新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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