「水分の取り過ぎ」で体調を崩すケースも 在宅高齢者は注意

水分の取り過ぎで危険なケースも
水分の取り過ぎで危険なケースも

 お盆が過ぎたというのに連日、暑い日が続いている。熱中症で救急搬送される人数もうなぎ上りで、総務省消防庁がまとめた令和4年8月15~21日の全国集計数は3338人。昨年同期の1685人から倍増している。年齢区分で目立つのは65歳以上の高齢者で、1805人と全体の54.1%を占めている。そのせいか、熱中症を警戒して水分を多めに取る高齢者も少なくない。しかし、かえって体調を壊し、命にかかわる事態になる高齢者もいる。「しろひげ在宅診療所」(東京・江戸川区)の山中光茂院長に水分の過剰摂取の問題点を聞いた。

「在宅診療を受けている高齢者の方々はテレビやラジオ、新聞などをよく見ています。そのため『熱中症にならないように水分をしっかり取りましょう』といった情報が流れる夏場はしっかり水分を取っている。その結果、『水分が足りない』のではなく『水分の取り過ぎ』で危険な状態になっているケースが多いのです」

 脳梗塞や心筋梗塞を発症したある高齢者は、「血液をサラサラにするために水分をたくさん取るようにお医者さんに言われたんです」と言い、1日2~3リットルの水分を取っていた。

 水分をたくさん取ったからといって、血液がサラサラになり脳や心臓の病気を防げるわけではない。それどころか体にとって大きな負担になってしまう。たとえば、心臓が弱っている人は体内の水分を腎臓で処理して尿として排泄することができずに、体内にたまってしまう。

「体内の水分がたまると血液量が増えて心臓に負担をかけます。また、増えた水分は肺でしみだしてたまるため、肺の機能も悪化させるのです。その結果、全身に送る酸素量が減って全身状態が悪くなってしまいます」

 こう説明すると、多くの高齢者は「夏場は脱水が心配で……」などと反論する。しかし、自宅での脱水の原因は水分不足ではないと山中医師は言う。

「ほとんどは水分不足ではなく、自宅にエアコンが入っていないなど室内環境の問題です。水分の過剰摂取は、血管内のナトリウムやカリウムという電解質を薄めてしまい、頭痛や吐き気が出たり、場合によっては、けいれん発作につながって意識消失してしまう場合もあります。うつ病や摂食障害などの病気がある方の多くは、精神的な不安定さから水分の過剰摂取が目立ちます。そのため前記の症状が出る『水中毒』になることが多いのです」

■食事やおやつでも余分な水分がたまる

 水分の過剰摂取の自覚がない高齢者の中には、水やお茶以外の食事やおやつで余分な水分を体にためこんでいるケースもあるという。

「私たちが診察をして、腹水や足のむくみが強いときに普段飲んでいる水分量を確認すると、たいがい『そんなに飲んでないんだけどなあ』と言われます。500~600ミリリットルぐらいしか飲んでないというのですが、よくよく聞くと、その水分量には、アイスクリームや果物などが入っていないことが多いのです」

 こうした高齢者の中には、夜間頻尿を訴え、薬を希望する人も多い。しかし、そのほとんどが水分摂取過多であり、薬を増やすより寝る前の水分摂取を減らすことで解決するケースが少なくない。

 医療現場では、他に点滴による水分過剰摂取が問題になる場合もある。

「がんの末期や肝硬変の患者さんの多くは、腹水がたまったり、足に強度のむくみが出る人がいます。病気で水分の代謝が悪くなっているからですが、別の原因もあります。よく目にするのが病院での過剰点滴です。普段診察している医師や看護師が日常の『水分量』をしっかりと正確に確認して、薬を出したりすればいいのですが、『血管内脱水を防ぐため』と言いながら過剰な点滴をする一方で、水分を体から出すための利尿剤を投与したり、腹部に針をさして腹水を抜いたりする。無理に体に水分を入れて、無理に抜くのは、体への負担が大きい。特に腹水を抜くときは血圧が大きく下がったり、必要な栄養が抜けてしまったり、命に関わることにつながります」

 それでなくとも腹水がたまったり、足や体にむくみが強いとき、痰がらみがひどいときなどは、体に過剰に水分がたまり、心臓や肺に大きな負担がかかっている状態だ。呼吸苦が出たり、利尿剤による腎機能の低下に注意が必要だ。

「メディアや家族、ときには医療・介護関係の方からも、無責任に『しっかり水分を取りましょうね』などと言われたときには、自分の病気のこと、体にむくみがあるかどうか、自分の食生活や水分量を正確に確認することに注意しましょう。それが自分の命や体調を守ることにつながるのです」

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