名医が答える病気と体の悩み

アルコール性認知症はどのくらいお酒を飲んでいるとリスクがあるのか

写真はイメージ
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 アルコール性の認知症は、大きく2つの原因が考えられます。

 一つは生活習慣病などの基礎疾患がありアルコールの大量摂取が加わり脳梗塞など脳血管性の障害によって、認知機能の低下を引き起こすケースです。脳に小さな梗塞が多発し、脳細胞にうまく酸素が行き渡らず、脳がダメージを受けてしまうことで起こります。

 もう一つは、アルコールの過剰摂取でビタミンB1不足に陥り、栄養障害などから起こるウェルニッケ脳症の後遺症による認知症です。

 症状は、自分がどこにいるか分からなくなったり、日時が理解できない見当識障害、記憶力の低下、学習能力の低下などがあります。治療は、ビタミンB1を点滴で摂取し、根本原因であるアルコールの摂取量を減らしたり、依存症の回復を行います。

 ウェルニッケ脳症の時点で発見できず、治療が遅れると「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」の発症リスクが高まります。

 ウェルニッケ脳症の場合、急性期には脳の下部に出血がみられ、重度の記憶障害、眼振など眼球運動の異常、平衡感覚に影響を及ぼして歩くとふらふらすることもあります。

 コルサコフ症候群に移行すると記憶障害が原因で話のつじつまを合わせようと作り話をするようになり、「酔っぱらうとウソをつく人」というレッテルを貼られ、病気と認知されるまでに時間がかかる患者さんも少なくありません。そうなると回復は難しくなります。

 従って早期発見がポイントとなります。飲酒量の多い家族、特に高齢者がいたら記憶力の低下、意識障害、ふらつきなどに注意して観察してください。少しでもおかしいなと感じたら、まずはかかりつけ医に相談してください。

 それでは注意すべき大量飲酒とはどの程度でしょうか。厚労省の「健康日本21」の指標が参考になります。アルコール依存症などの問題を抱える多量飲酒とは、「1日平均60グラム以上の飲酒」と定義されています。これは成人男性の1日のアルコール平均摂取量の3倍以上の量です。こうした多量飲酒に加えて、飲酒時に食事をほとんど取らない方はウェルニッケ脳症の原因となるビタミンB1不足に陥りやすい。さらに偏食が多く、毎日インスタント食品やスナック菓子を消費しているような食生活の方も発症リスクが高まります。ビタミン不足の場合は貝類や山菜、サプリで補給しておくとよいでしょう。

▽永澤守(ながさわ・まもる) 2002年3月福井医科大学(現・福井大学医学部)卒業。美濃市立美濃病院内科、東京さくら病院および同認知症疾患センターなどの勤務を経て、現在はかつしかキュアクリニック院長。

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