「じっとしていても痩せやすい体」になるにはタンパク質の摂取が肝心

健康に過ごすためには筋肉量が重要
健康に過ごすためには筋肉量が重要

 何もしなくても痩せやすい体でいるには、筋肉量が大事。筋肉量が多い人と少ない人では、体重に差が出てくる。

「筋肉はタンパク質で作られます。その合成にはエネルギーが必要で、それに応じて脂肪の消費量が変わるため、筋肉の多い人の方が太りにくい」

 こう話す立命館大学スポーツ健康科学部・藤田聡教授によれば、たとえば身長と体重が同じで、一方は筋肉量12キロ、もう一方は筋肉量21キロの2人を比べれば差が歴然だという。

「筋肉量12キロの人の筋肉の合成に必要なエネルギーは1日117キロカロリー。一方、筋肉量21キロの人は1日204キロカロリー。1日87キロカロリーの差が持続的に続くので、3カ月で脂肪にすると1キロの差が生まれます」

 筋肉量は、太りやすさに関係しているだけではない。糖尿病の発症リスクにも影響を与える。

「食後、8~9割の糖質は筋肉に取り込まれて筋グリコーゲンとして貯蔵されます。しかし筋肉量が減ると貯蔵庫の容積が少ないため糖質が取り込めず、インスリン抵抗性の原因になり、糖尿病リスクを高めるのです」

 筋肉量が少ないと高齢者ではフレイル(虚弱。健康と要介護の中間)やサルコペニア(加齢による筋肉量の減少及び筋力の低下)の問題が生じ、そのままいくと寝たきりを招き寿命に関係する。

 筋肉を作るのは、前述の通りタンパク質。一日に必要なタンパク質量は、標準体重で活発な運動をしていない場合、体重1キロ当たり0.8~1グラムが目安だ。しかし名古屋大学発のベンチャー企業、ヘルスケアシステムズの調査では、「日本人の食事摂取基準2020年版」を参照にした目標量に対し、約7割が未達成。さらに藤田教授は、総摂取量だけでなく、1食ごとの摂取量が大事だと指摘する。

「タンパク質はためられず、3食均等に取ってこそ筋肉を合成するスイッチが一日3回強く入る。日本人のタンパク質摂取量は朝昼少なく、夜に多いのですが、こういった不均等なタンパク質の取り方では、作られる筋肉量に違いが出てきます」

 若者を対象にした研究で、1食以上タンパク質摂取量が不足している人は、3食充足している人より有意に筋肉量が少ないとの結果が出ている。

高タンパク質でロイシンの含有率が多い乳製品で効率よく摂取
高タンパク質でロイシンの含有率が多い乳製品で効率よく摂取
効率がいいのは乳製品

 では、お勧めの取り方は?

【アミノ酸ロイシンの含有率が高い食品を選ぶ】

 筋肉の合成には、細胞内のシグナル伝達物質mTOR(エムトール)という酵素が関わっている。これに関係するのが、必須アミノ酸のひとつ、ロイシンだ。

「食後のロイシンの血中濃度が高いほど、mTORに強く作用し筋肉の合成が促進されます。タンパク質1グラム当たりのロイシンの含有率を見ると、牛乳、ヨーグルト、プロセスチーズと乳製品に多い。食事をたくさん取れない高齢者などは、高タンパク質でさらにロイシンの含有率が多い食品を選ぶといい」

【いつもの食事に“混ぜる”“かける”】

 日本獣医生命科学大学客員教授で栄養士の佐藤秀美氏が特に高齢者に勧めている方法がこれ。

「タンパク質量を増やしたくても、食事の量を大幅に増やすには限界があります。しかし混ぜたりかけたりするだけなら、食生活をそう変えず、簡単に実践できます」

 活用するのは、ゼラチン、ゴマ、粉チーズ、きな粉、スキムミルク、かつお節、焼き海苔、麩。かつお節、焼き海苔、麩は袋に入れて揉むなどして粉々にする。

「卵にチーズ、海苔、麩を混ぜて卵焼きを作る。肉じゃがやカボチャ煮など煮物にゼラチンを入れる。かつお節やすりゴマでしゃぶしゃぶのタレや白和えを作る。ヨーグルトにきな粉、味噌汁にかつお節をかけるだけでもいい。普段の食事にちょっと加えるだけでタンパク質の増量ができます」

 ムキムキの人だけにタンパク質が必要なのではない。健康長寿のために、今日から始めよう。

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