「合わないメガネ」が招く意外な弊害…疲れ目や肩凝りだけではない

8~9割の人が合わないメガネをしている!?
8~9割の人が合わないメガネをしている!?

 10月1日は「メガネの日」、10月10日は「目の愛護デー」であることをご存じだろうか。前者は日付が「1001」と表記でき、「1」をメガネのつる、「0」をレンズとみなすとメガネの形をしていることが理由。後者は日付の「1010」を横に倒すと眉と目の形になるからだという。この間を「目とメガネの旬間」と呼び、目の健康やメガネの大切さを呼びかけるイベントが行われる。そこで、あまり知られていない「合わないメガネの弊害」について「自由が丘清澤眼科」(東京都目黒区)の清澤源弘院長に聞いた。

「合わないメガネをしている人は想像以上に多く、来院患者全体の8~9割に及ぶという眼科医がいるほどです。診察中に出合う合わないメガネで多いのは、度が強すぎる、弱すぎる、左右の近視の度の違いを反映できていない、乱視が合っていない、などのメガネです」

 眼精疲労を訴えて来院した患者の中には、実は遠視なのに、間違って近視用メガネを作らされていた人もいたという。

「緊張して調節力が強く働いた状態で自動屈折計が打ち出した屈折値を基に店でメガネを作成したものの、私が点眼薬を使って目の緊張を解いてみたら実は遠視だったというケースです」

 しかし、合わないメガネで最も多いのは度の強すぎるメガネ=過矯正のメガネだという。合わないメガネの実に7割が過矯正だという話もある。

「現代人は室内で過ごすことが多く、仕事や勉強で近くのモノを長時間見る生活をしています。ですから、本来はそれほど度数の強いメガネは必要ありません。むしろ、度数が強すぎると『過矯正』となって目に余計な疲労が蓄積し、イライラや眼精疲労を引き起こして、吐き気や頭痛、肩こりなどの原因ともなります」

 とくにいまはスマホの利用、子供のオンライン授業や大人のリモートワークなどの増加により、長時間デジタル機器を見つめ続けることで引き起こされるVDT症候群を患うリスクが高い。

 実際、厚生労働省の「平成20年 技術革新と労働に関する実態調査」でも、パソコンを日常的に使用する仕事をしている人のうち、9割以上の人が目の疲れや肩こりがあると回答している。

 目の痛みやドライアイなどといったVDT症候群の症状に過矯正が拍車をかけ、眼精疲労が深刻化しやすい状況にある。

 ではなぜ、「よくない」とわかっているのに過矯正のメガネを選んでしまうのか?

「近くを見る生活をしていながらも、いまだに遠くを見る能力を示す『遠見視力』信仰があるからです。そのため、メガネを購入する際に『遠くがよく見えるように』作ってしまいがちなのです」

■肩や腕のシビレ、認知症とも関係

 メガネの過矯正が引き起こす弊害は眼精疲労だけではない。小中学生らの近視を進行させるリスクも増大させてしまうという。

「ヒトがモノを見るとき、目はカメラのレンズのような働きをする水晶体の厚さを調節してピントを合わせています。この調節に関わっているのが毛様体筋と呼ばれる筋肉です。遠くを見るときは緩み、水晶体を薄くしてピントを合わせます。一方、近くを見るときは収縮して、水晶体を膨らませてピントを合わせます。近視の人は毛様体筋の調整力が弱まっており、正しい位置で焦点を合わせることができません」

 近視用メガネは毛様体筋の調整範囲を手助けして遠くのモノも見やすくしてくれる。

「しかし、このピントを合わせる距離が合っていないメガネを使い続けると、毛様体筋の調整力が更に弱まり、ますますピントを合わせる力が弱まります。つまり、近視が進行してしまうということです」

 合わないメガネをかけ続けていると、なんとかして見ようとして姿勢を悪くし、それが原因で「頚肩腕症候群」を発症する場合もある。

「頚肩腕症候群はその名前の通り、頚部・肩・腕にかけて痛みやシビレが生じる疾患です。姿勢の悪さや、作業に使う合わないメガネが原因になっています」

 高齢者の場合は、ただでさえ足腰が弱り、転倒リスクが高い。それがそのまま寝たきりにつながることも多い。合わないメガネは、そのリスクを更に高くする。

 最近では目の見え方が認知症の発症リスクに関係するとの見方が浮上。合わないメガネをかけ続ける危険性が指摘されている。

「高齢者の多くは目の見えにくさの原因を白内障や緑内障と考えがちですが、実は、視力をきちんと矯正していないことによる視覚障害が原因になっていることが多いと知られています。それだけ自分に合うメガネを作ることが大切なのです」

 せっかくの「目とメガネの旬間」だからイベントに参加したり、眼科医やメガネ店を訪ねて、自身の目やメガネに向き合ってみてはどうだろうか?

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