高齢者の正しいクスリとの付き合い方

吸入器は正しくしっかり吸い込めないと効果が発揮されない

写真はイメージ
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 気管支ぜんそくなどの呼吸器の病気の治療では、「吸入薬」を使う場合があります。たとえば、肺気腫は肺の気管支の末端にある肺胞という組織が壊れることで呼吸に支障を来すことが特徴で、高齢かつ長期間喫煙歴がある(あった)方に多く、治療には吸入薬を使うケースが多いです。

 病気による肺の炎症の大部分は、気管支の太いところよりも細いところ、つまり末端で起こります。そのため、こういったクスリは成分をいかに肺の奥の方まで届かせるかが重要なポイントになります。吸入薬にはその効き方の違いによって「炎症を予防するもの」や「気管支を広げるもの」などさまざまな種類がありますが、今回は種類ではなくクスリの「形状」に関することについてお話しします。

 吸入薬にはクスリの形状の違いによって「パウダー型」と「エアロゾル型」に分類されます。パウダー型はその名の通りクスリの成分が粉状になっていて、吸入する人の息を吸う力によってクスリが気管支に入っていきます。エアロゾル型はクスリの成分が液体になっていて、ガスの力でクスリが霧状になって噴出されます。缶スプレーみたいなもの、というと少しイメージしやすいでしょうか。

 パウダー型のメリットは、吸入のタイミングを考える必要がないところです。クスリの成分は息を吸い込むことで気管支に入っていきます。つまり、息を吸い込もうとしない限りクスリの成分は出てこないのです。ところが、これは場合によってはデメリットにもなります。クスリの成分が粉状であるため、主に炎症が起こっている気管支の末端までそれを行き届かせようとすると、結構強い力で息を吸わないといけません。高齢になると息を吸い込む力が弱くなっている方もいらっしゃいます。そういった場合は、クスリの効果が発揮されないだけでなく、成分が口の中に残ってしまって副作用の原因になる場合もあります。

 エアロゾル型はクスリの成分が霧状になって出てくるので、息を吸い込む力が弱くなっていても成分を気管支の末端まで行き届かせることができます。しかし、クスリの成分は指でボンベを押し込むことで出てくるため、エアロゾル型の多くは吸入のタイミングがとても難しいといえます。そのため、吸入のタイミングを考えなくてもよくなるような吸入補助具もありますが、別途費用がかかりますし、補助具のメンテナンスも必要になります。

 吸入薬を使う場合、病気の種類や状態によって一番効果的な成分が選択されるのですが、それがきちんと効果を発揮して欲しいところに行き届くことで、初めて効果が得られます。自分の吸入薬の特徴をしっかり理解して、ちゃんと吸えるようにしたいものです。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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