C型肝炎は「治る時代」なのに「治らない患者」がいる理由

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 肝硬変や肝臓がんに大きく関与しているのがC型肝炎ウイルスだ。C型肝炎ウイルスに感染すると70%が持続感染者となる。治療でウイルスを排除しなければ肝臓の線維化が進み、「慢性肝炎→代償性肝硬変→非代償性肝硬変→肝臓がん」と進行。非代償性肝硬変、肝臓がんでは死に至るリスクもある。

 C型肝炎は、治療(インターフェロン療法)が登場した当初は副作用が非常に強く、ウイルスを排除できる率はわずか約6%だった。しかし今では「直接的抗ウイルス薬」という飲み薬が複数種類登場しており、ほぼ全員がウイルスを排除できる。

 直接的抗ウイルス薬は、慢性肝炎か肝硬変か、代償性肝硬変か非代償性肝硬変によって、使える薬や適切な服用期間が異なる。しかし今年8月、直接的抗ウイルス薬のひとつ「エプクルーサ」が適応拡大となり、C型肝炎の進行にかかわらず使えるようになった。しかも1日1回1錠、12週間服用すればよく、安全性が高い上に、ウイルスを100%排除できる。より使い勝手のいい薬が登場したのだ。

「私たちのところに来て治療を受けている患者さんは、みなさんウイルスを排除できている。問題は、治療できたC型肝炎患者は氷山の一角ということです」(千葉大学大学院医学研究院消化器内科学・加藤直也教授=以下同)

 日本人のC型肝炎患者数は推計100万~150万人。このうち治療できたC型肝炎患者は約47万人。一方、感染を知りながら治療を受けていない人は25万~75万人、感染を知らない感染者は30万人と推計されている。

■感染がわかっていても症状がないから受診しない

「なぜか? それは自覚症状に乏しいからです。慢性肝炎や、肝臓の働きがある程度保たれている『代償性肝硬変』では症状がなく、肝臓の機能が失われた状態の『非代償性肝硬変』になってようやく症状が出てくる。肝臓がんがあっても、3~5センチ程度ではほとんど症状がありません。だから病院に行かなくてもいい、となってしまう」

 実際、精密検査をしてC型肝炎と診断されたが通院していない理由を調べた報告では、1位が「症状がない」。2位、3位には「医師に通院しなくていいと言われた」「医師に『経過観察』と言われた」とあり、これは肝機能検査で異常が見つからなかったためと考えられるが──。

「肝機能検査でALT(GPT)が正常だと肝臓は悪くないと思われがちですが、ALTは肝臓の細胞が壊れているかどうかを見ているだけで、どれだけ病気が進んでいるかを見ているのではない。ALTが正常でも肝硬変のケースはある」

 前述の通り、効果が高く、安全な薬が登場している。C型肝炎ウイルスに感染しているなら、速やかに適切な治療を開始すべきだ。

「症状がないから大丈夫」というのは、C型肝炎において大きな間違いであることはこれまで述べた通り。もうひとつ、よくある間違いが「治療でC型肝炎ウイルスを排除したから、肝臓がんにならない」。

「ウイルスを排除できれば肝線維化ステージは4年で1段階良くなります。海外のデータでは、直接的抗ウイルス薬でウイルスを排除することにより肝臓がん発生率は4分の1となりました。国内外のデータでは、5年間の肝関連死が66%低下しました」

 確かに肝臓がんのリスクは減少しているが、見落としてはいけないのは「0」になったわけではない点。ウイルスを排除しても、がんになる可能性はあるのだ。

「しかし、早期発見をすれば予後がいい。そのためには、ウイルス排除後も定期的な通院、検査が必要不可欠です」

 健康な人なら年1回の健康診断や人間ドックでいいが、C型肝炎ウイルス感染経験者は、それでは不十分。目安は、慢性肝炎や代償性肝硬変だった人は半年に1回、非代償性肝硬変だった人は3~5カ月に1回。検査では、肝機能検査を含めた血液検査、超音波、腫瘍マーカーのチェックなどを行う。

 ◇  ◇  ◇

 C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかまだ一度も検査を受けたことがない人はHCV抗体検査を。居住地域の保健所や医療機関で受けられ、地域によっては無料で受けられる場合がある。

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