Dr.中川 がんサバイバーの知恵

再発肺がんで急逝した三遊亭円楽さん 報道より進行していた可能性

三遊亭円楽さん
三遊亭円楽さん(C)日刊ゲンダイ

 肺がんで亡くなった落語家・三遊亭円楽さん(享年72)が4日、親族や直弟子21人に囲まれて荼毘(だび)に付されたそうです。葬儀の最後、奥さまが「楽ちゃん、ありがとう」と声をかけると、お経をあげた菩提寺の住職も涙で声を詰まらせたといいます。

 記憶に新しいのは、8月の高座復帰でしょう。今年1月の脳梗塞で高次脳機能障害による短期記憶障害に悩まされながらも、古典落語を披露。これからと思われたとき軽度の肺炎を発症。それも良くなって、肺がん治療を再開した矢先の訃報と報じられただけに、皆さん、「何があったの?」と思われたでしょう。

 この間の報道を総合すると、再発した肺がんがかなり進行していたのかもしれません。分かる範囲で振り返ってみましょう。

 2018年8月に右肺にステージ2~3Aの肺がんが見つかると、右肺の3つの部位に分かれる1つをロボット手術で切除して、術後抗がん剤治療をプラスしました。

 翌19年7月、MRI検査で脳と首のリンパ節への転移が判明。脳転移は2.5センチで、ガンマナイフという定位放射線治療を1回15分、3日かけて受けています。

 脳転移にはガンマナイフがとても効果的です。円楽さんは治療で、高座で感じていた「モヤモヤが消え、湯水のごとく言葉があふれてくる」と治療効果を語っています。ですから、脳転移は制御できていたと考えられ、記憶などへの影響は報じられている通り脳梗塞と考えるのが妥当だと思います。

 脳転移は、治療をしないと1~2カ月で転移巣がある部位の神経症状が現れ、3カ月ほどで命に影響を及ぼします。その点からも、脳転移が悪さをした可能性は少ないでしょう。

 このガンマナイフ治療とは別に、免疫チェックポイント阻害剤・キイトルーダによる薬物治療をスタート。その後の検査で、頚部リンパ節の腫瘍が縮小したそうです。

 キイトルーダについては先月、医学誌「ランセットオンコロジー」にこんな研究結果が掲載されました。ステージ1~3Aの非小細胞肺がんを手術した人に、術後療法としてキイトルーダを単独で使用した場合の有効性や安全性を調べた研究です。

 それによると、キイトルーダの無病生存期間は53.6カ月。偽薬の42.0カ月を有意に上回りました。無病生存期間とは、ある治療をしてから再発または死亡するまでの長さを示します。

 円楽さんは再発後にキイトルーダを使用していますから、この研究より条件が悪いとはいえ、再発から2年ほどで亡くなっていて、今回示されたデータよりかなり短く、偽薬を下回っています。この点からも、再発後の状態は、報じられているよりもひょっとするともっと深刻だったのかもしれません。そう考えると、肺がん発見時に早期でなかったことが悔やまれます。

 最期まで落語とともに生きられた円楽さんのご冥福をお祈りします。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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