睡眠時間が足りていない人は「高血圧」になりやすい 1時間減でリスクは37%増える

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 高血圧症は生活習慣病の中で患者と予備群が最も多く、日本における患者数は約4300万人と推計されている。日本高血圧学会では「収縮期血圧140㎜Hg以上/拡張期血圧90㎜Hg以上」を高血圧症と定めていて、脳卒中や心筋梗塞といった脳・心臓血管病の最大の危険因子である。投薬治療や食事療法が行われるが、高血圧は「睡眠」とも深く関係している。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

 米シカゴ大学の研究チームの報告によると、睡眠時間が不足している中高年は高血圧になる可能性が高くなることがわかっている。5年間にわたり平均年齢40歳の578人を対象に、睡眠時間が「4時間未満」「4~5時間」「5~6時間」「6~7時間」「7時間以上」の5つのグループに分けて比較したところ、睡眠時間が1時間少なくなるごとに高血圧になるリスクが37%上昇していた。さらに、2時間少なくなると高血圧リスクが86%高くなるという。

 睡眠不足になるとなぜ高血圧リスクが高くなるのか。

「血圧の一日内の変化は、起きてから日中にかけて血圧が上昇し、夕方から徐々に下がっていき、寝ている時に最も低くなります。これは、日中の活動時には交感神経活動が優位になり、就寝中は副交感神経活動が優位になるからです。つまり、眠っているときは副交感神経活動が主体になっていなければなりません。しかし、睡眠時間が短かったり、睡眠の質が低下していたりすると、交感神経活動が優勢になっている時間が長くなります。すると、神経伝達物質のカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)やストレスホルモンのコルチゾールが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増加させ、血流を増やして血管を収縮させるため血圧が上昇します。コルチゾールも血管を収縮させるうえに血中ナトリウムを増加させる働きがあり、血圧が上がります。本来は血圧が下がるはずの就寝中も、翌日の活動時も血圧が高い状態が続くことになり、慢性的な高血圧を招いてしまうのです」

 睡眠の質が低下する睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠呼吸障害がある人は、高血圧になりやすいという報告もある。米国で実施された睡眠呼吸障害の大規模研究「ウィスコンシン睡眠コホート研究」では、709例の一般住民を対象に4年後の高血圧発症リスクを調査したところ、SASがある人は、健康な人の1.4~2.9倍も高血圧を発症するリスクが高かったという。

 高血圧の人の約10%はSASを抱えているというデータもあるから、やはり睡眠時間の不足や質の低下は高血圧と大きく関係しているのだ。

■ストレスも関係

 睡眠不足によるストレスも血圧を上昇させる要因になっているという。

 ストレスは動物にとって緊急事態なので、急性のストレスを受けると防御反応が起こる。交感神経が活性化し、前述したカテコールアミンなどの神経伝達物質や、コルチゾールやアルドステロンといったホルモンが大量に分泌される。これらの作用によって、心拍数や心拍出量が増えたり、血管が収縮したりすることで血圧が上昇する。いわば、緊急事態に対して臨戦態勢を整えた状態と言える。

「通常の場合、受けている急性ストレスがなくなれば、血圧も元に戻ります。しかし、長期にわたって慢性的にストレスを受けていると、持続的に血圧が上昇し、高血圧につながるリスクがあると報告されています。また、名古屋大学大学院の研究グループは、大脳皮質にある一部の領域から、体の調節に重要な交感神経系を制御する視床下部へストレス信号を直接伝える神経伝達路を発見しました。この神経伝達路によって、心理的なストレスで生じる体温、脈拍、血圧の上昇が起こるといいます。慢性的な睡眠不足は、精神的にも肉体的にもストレスを与えるので、高血圧に結びつくと言えるでしょう」

 高血圧の予防や治療には、質の良い睡眠を十分にとることが必要なのだ。

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