Dr.中川 がんサバイバーの知恵

難治すい臓がんに光 国内7番目の重粒子線治療の施設が誕生

山形市の東日本重粒子センターの重粒子線でがん細胞を破壊するための装置(C)共同通信社
山形市の東日本重粒子センターの重粒子線でがん細胞を破壊するための装置(C)共同通信社

 東北初の重粒子線治療施設として、山形大医学部の東日本重粒子センターが今月3日からすべてのがんに対する重粒子線治療をスタートし、話題を呼んでいます。

 重粒子線は放射線の一種で、炭素の原子核を光の速さの70%まで加速したもの。その施設は山形で7カ所目です。気になるのは、その効果でしょう。

 重粒子線をがんに向けて照射すると、体の中をある程度進んでから急激に高エネルギーになり、そこで消滅する性質があります。そのピークをがんがある部分に合わせると、がんのみを集中的に叩くことができるほか、その手前や奥にある正常な細胞を傷つけにくいのです。つまり、X線より治療効果が高く、副作用は少ない。治療期間も少なくて済みます。

 重粒子線のがん治療のうち、保険適用になっているものは、転移のない前立腺がん、頭頚部がん(口腔、咽喉頭の扁平上皮がんを除く)のほか、手術ができない肝臓がんとすい臓がん、子宮頚がん、骨軟部腫瘍、そして手術後に再発して切除できない直腸がんの7つです。

 たとえば、難治がんの一つすい臓がんは、X線より重粒子線がよいでしょう。X線と抗がん剤を併用する化学放射線治療では、消化管への影響や白血球の低下などによって治療の継続が難しいことがありました。

 重粒子線では、X線より高い線量を照射し、抗がん剤は最大限投与できます。照射回数は、X線の半分以下の12回。それでいて副作用の頻度は、抗がん剤の単独投与と同等です。

 臨床試験のデータでは、2年生存率は48%。正常組織への障害は、72例中わずか3例でした。化学放射線の治療成績は10~20%ほどですから、その差は歴然です。

 肺がんでは、X線による定位放射線治療では4~6回の照射ですが、重粒子線なら1回。ステージ1の肺がんで5年生存率は6割ほど。進行肺がんの2年生存率は約5割と悪くありません。さらに骨軟部腫瘍も、重粒子線がよいと思います。

 しかし、前立腺がんはX線がベター。古くは、前立腺がんの放射線治療は、35~40回の照射が必要でした。それが定位放射線治療の登場で、5回で済むようになっています。直腸への副作用も激減していて、治療成績は手術と同等です。

 一方、重粒子線だと、照射回数は12回。治療成績も、5回照射と大差ありませんから、5回照射の方がメリットが大きいといえます。

 前立腺がんの場合、重粒子線の費用は160万円で、5回照射の定位放射線は63万円(いずれも患者負担は1~3割)。費用面でも、5回照射に分があります。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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