健康の「素朴な疑問」

「睡眠負債」があるのなら「睡眠貯蓄」も存在するのか?

写真はイメージ(C)Milatas/iStock
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【Q】「睡眠負債」があるなら「睡眠貯蓄」「睡眠一括返済」はできますか?

【A】人間が毎日眠るのは、睡眠中に心と体の修復や記憶の整理をするからです。例えば、体は眠っている間に成長ホルモンを分泌し疲れをとり、傷んだ部分を修復します。また、睡眠中に日中に見たことや学習したことを脳に定着させたり、整理したりします。だから、睡眠時間が不足すれば修復や記憶などの整理が十分できないために疲れが残ったり、記憶が曖昧になったり、学習効果が低くなったりするのです。

 睡眠は必要です。だからといって、本来日々行うべき心身の修理や整理を、あらかじめまとめてこなしたり、こなしきれなかったものを、後でまとめて、すべて完璧にこなせるわけではありません。

 というのも、人間には時計遺伝子の働きによって体内では24時間の概日リズムが刻まれており、長時間眠れるわけではないからです。

 米国で1964年のクリスマス休暇に17歳の男子高校生が断眠記録を達成しました。時間は264時間12分です。起きているようにみえて意識は寝ていた時間もあったかもしれませんが、いずれにせよ、この男子高校生は11日間起きたままだったというわけです。

 驚いたことに、この男子高校生はチャレンジ終了後14時間40分寝ただけで体の状態が回復したことです。このように、人間は長時間寝られないシステムを持っており、睡眠の貯蓄や一括返済も事実上難しいと考えられています。

 とはいえ、1日の睡眠時間を短期間延ばすことは可能なようです。ある実験で平均睡眠時間7.5時間の10人を1日14時間ベッドに入るようにしたところ、全員が平均13時間前後寝たそうです。

 もっとも、この10人は睡眠時間が徐々に短くなり、3週間後に8.5時間になったそうです。恐らくはこの10人に必要な睡眠時間は8.2時間だったのでしょう。「睡眠負債」解消のための「睡眠貯蓄」も「睡眠負債一括返済睡眠」もないと私は考えます。できることは毎日必要な睡眠時間をとることです。

(弘邦医院・林雅之院長)

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