上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

心臓を守るために普段から使いたい2つの電化製品

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 以前、心臓を守るための正しいエアコンの使い方についてお話ししました。心臓にトラブルを抱えている人は、体温の管理や体液のバランスを維持することが重要で、それらを安定した状態で管理するにはエアコンを適切に利用して室温=環境温度を整えることがとても大事なのです。

 心臓を守るために賢く利用したい電化製品はほかにもたくさんあるので、いくつか挙げてみます。

 まずは、睡眠の質を高めることを目的にして、医師や科学者らの専門チームによって開発された睡眠補助装置「ディープスリープ ヘッドバンド」です。ヘルスケア製品や医療関連機器を展開しているフィリップスから発売されています。

 脳波を測定するセンサーと骨伝導スピーカーが内蔵されているヘッドバンドを就寝時に頭に着けて使用するもので、入眠前にはヒーリング音が流れ、眠りを感知すると自動的に停止します。さらに、ノンレム睡眠の最も深い眠りの段階に入るたびに断続的なビープ音が流れ、深い睡眠時に出現するスローウエーブの活性化をサポートするといいます。

 睡眠不足は心臓にダメージを与えます。自律神経のバランスが崩れてしまうことが大きな要因です。自律神経は、活動時や緊張状態で優位になる交感神経と、リラックスしているときに優位になる副交感神経のバランスで成り立っています。通常であれば睡眠中は交感神経の活動が低下し、副交感神経の活動が高まりますが、睡眠不足になると交感神経が優位になっている時間が長くなってしまうのです。

 交感神経が優位になると、神経伝達物質のアドレナリンや、ストレスホルモンのコルチゾールが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増加させたり、血流を増やして血管を収縮させる作用があり、血圧が上昇します。コルチゾールも血管を収縮させるうえに血中ナトリウムを増加させるので血圧が上がります。それだけ心臓の負担が増えるうえ、動脈硬化も促進されてしまうため、心臓疾患につながりやすくなるのです。就寝中に何度も呼吸が止まって低酸素状態を繰り返す睡眠時無呼吸症候群(SAS)がある人は、狭心症、心筋梗塞、心房細動といった病気が起こりやすいのも同じ理由です。

 ですから、こうした睡眠補助装置は、とりわけ心臓トラブルを指摘されていたり、心機能障害がある人には有効だといえるでしょう。

■ミストサウナは血液循環を促進

 浴室を低温サウナにしてくれる「ミストサウナ付き浴室暖房乾燥機」も心臓を守るために一定の効果があると考えられます。最近は浴室の天井や壁に設置する家庭用タイプが普及してきていて、細かい霧状の温かいミストを噴出して、浴室が低温で高湿度のサウナになります。

 こうしたミストサウナは、日本で高度先進医療として承認されている「和温療法」と同じような効果が見込めると考えられます。和温療法は、室温を60度に設定した遠赤外線乾式サウナ治療室で全身を15分間温め、その後、椅子などに座った状態で30分間保温し、最後に発汗量に見合った水分を補給します。体を温めることで全身の血管が広がり、心臓の負荷が減って血液循環が促進されるのです。心不全や狭心症の治療に使われる血管拡張剤と同じような効果が臨床研究で確認され、保険適用が認められた日本初の慢性心不全治療です。

 いわゆる一般的な乾式のドライサウナは室内温度が70~100度程度なのに対し、家庭用のミストサウナは約40度ですから、室温を60度にする和温療法に近いといっていいでしょう。“疑似和温療法”のような効果が期待できそうです。

 また、低温で高湿度のミストサウナは、ドライサウナのような息苦しさがありません。調査では血圧や脈拍に与える影響が少ないこともわかっています。つまり、体の負担が少ないままゆっくり入浴できるのです。そのため、リラクセーション効果によるストレスの軽減も期待できます。私も気分転換のために自宅の浴室で使っています。

 ストレスは心臓にとって大敵です。われわれはストレスを受けると交感神経が優位になります。先ほどもお話ししましたが、ストレスをうまく解消できずに交感神経が優位になっている時間が長くなると、心臓に負担がかかって、心臓疾患につながるリスクがアップします。そんな危ないストレスの解消にミストサウナが効果的なのです。

 睡眠補助装置もミストサウナも医学的な治療ではなく、心機能回復の医学的根拠に基づく疑似効果を期待したものです。普段の生活に組み込むことで、心臓の健康を維持するために役立つだろうと考えられます。

■本コラム書籍化第2弾「若さは心臓から築く」(講談社ビーシー)発売中

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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