高齢者の正しいクスリとの付き合い方

眠気や味覚に影響するクスリは“食べる”をジャマする

写真はイメージ
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“食べる”という行動は、先行期(認知期)、準備期、口腔期、咽頭期、食道期に分けられると前回お話ししました。そして、それぞれに対してさまざまなクスリが影響を与えます。

 まず、「中枢抑制作用を持つクスリ」(抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬、抗てんかん薬など)は、食道期を除くすべての時期に悪影響を及ぼします。中枢抑制作用というと難しいですが、「眠気を起こすクスリ」と言えばわかりやすいかと思います。

 眠気が強いと食べ物は当然認識することができませんし、口に運ぶこともしないでしょう。また、無理やり口の中に食べ物を入れても“もぐもぐ(咀嚼=そしゃく)”しようとはしませんし、“ごっくん”なんて夢物語です。みなさんも一度眠っているときに家族や知り合いに食べ物を食べさせてもらってみてください。絶対に食べられませんし、食べようともしないことがわかります。

「味覚障害を起こすクスリ」(抗がん薬、抗菌薬、抗リウマチ薬など)は、主に先行期(認知期)と準備期に悪影響を及ぼします。たとえば、ほとんどの人は一度でもまずいと感じたものは、それ以降食べようとしないはずです。味噌汁の味を甘酸っぱく感じてしまったとしたら、やはり次からはあまり食べようと思わないでしょう。クスリによって味覚障害が起こると、こういったことから“食べる”弊害となってしまいます。

「錐体外路症状を起こすクスリ」(抗精神病薬、消化管運動促進薬など)は、準備期と口腔期に影響します。錐体外路症状とは神経症状のひとつで、運動障害が起こります。具体的には、筋肉が硬直して体が動かしにくくなったり、体の一部が震えたりする症状で、いずれも自分の意識とは関係なく出現します。

 錐体外路症状が出てしまうと、咀嚼がうまくできなくなり、結果として口の中で食塊を作りにくくなります。また、仮に食塊を作れたとしても、舌がうまく使えないためそれを喉に送り込めなくなってしまうのです。なお、錐体外路症状は一度出現するとクスリを中止しても回復までかなり長い時間を要するので、起こさないようにすることがとても重要です。

「嚥下(えんげ)反射を直接低下させるクスリ」(一部の睡眠薬など)は、咽頭期に影響を及ぼします。前回、咽頭期の“ごっくん”は極めて短時間で起こるとお話ししましたが、実はさまざまな機能が連携したかなり複雑な動きを行っています。

 こういったクスリは、咽頭期の連携を鈍らせてしまうので、うまくのみ込めなくなってしまうのです。

「口腔乾燥を起こすクスリ」(抗精神病薬、利尿薬など)は、中枢抑制作用を持つクスリと同様に食道期を除くすべての時期に悪影響を与えます。つまり、「唾液」は“食べる”のさまざまな過程において、非常に重要な役割を持っているということです。次回は“食べる”における唾液の役割とクスリの影響について詳しくお話しします。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

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