自覚症状がないから糖尿病は心配ない…は大間違い 境界型でも心臓病リスクが2.2倍

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「放置してたら(心血管病で)死んでましたよ」

 東京都内在住の男性(60)は50歳の時、妻の強い勧めで健診を受けたところ、血圧、中性脂肪、コレステロールが軒並み高く、特に血糖値の高さは際立っていた。再検査を受けた病院で医師から告げられたのが、冒頭の言葉だった。

 この男性は、亡き父親が糖尿病で、生前、人工透析で大変そうにしているのを目にしていた。しかし自分に置き換えて考えることはなく、多忙を理由に十数年間、健診を受けていなかった。

 インスリンが十分に働かなくなり、血糖値が高くなる糖尿病は、名前はよく知っているが、怖さが正しく認識されていない病気の筆頭格ではないか。「血糖値が上昇しても無自覚。そのため糖尿病は診療、治療開始が遅れる」と指摘するのは、国立国際医療研究センター糖尿病情報センター長の大杉満医師だ。

 症状が何もなくても、ダメージゼロではない。

「糖尿病になる前の血糖値が多少上がってきた段階から、動脈硬化による病気のリスクが上昇します。心血管病のリスクは、糖尿病のある人は3.5倍、糖尿病になる前段階である境界型でも2.2倍です」(大杉医師=以下同)

 高血糖が長く続くと、網膜症、腎症、神経障害といった細小血管障害という合併症が起こる。手遅れになれば、網膜症では失明、腎症では人工透析、神経障害では足壊疽による下肢切断に至る。米国と豪州の患者調査では、網膜症は糖尿病診断時にすでに見られ、検査で糖尿病と診断される4年半から6年半ぐらい前から影響が出始めると推定されている。

■HbA1cが1%低下するだけで合併症発症率は大きく下がる

 一方、これら糖尿病の合併症は、血糖値の低下で予防できる。英国で行われた臨床試験UKPDS33では、血糖コントロール指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の1%低下に伴う合併症抑制率は、下肢切断あるいは致死的な末梢血管障害が43%減、細小血管障害が37%減、心筋梗塞が14%減、脳卒中が12%減だった。糖尿病は動脈硬化を進行させ、細小血管障害を起こすだけではない。がんや認知症のリスクを高め、歯周病と相互関係で負のスパイラルを招き、免疫力を低下させる。

「糖尿病治療は選択肢が増えています。目標値を設定して血糖値を下げていけば、合併症などのリスクを低くできます」

 まずは現状把握だ。血液検査でHbA1cを調べる。糖尿病と診断されたら、治療開始となる。

「糖尿病の治療となると、薬の種類や使い方に目が行きますが、食事と運動療法がうまくいっていないと血糖値は良くなりません」

 強力なエビデンスがある食事療法は、ナッツやオリーブオイルが主体の地中海食だ。ただし、推奨されるオリーブオイルの量は日本人には多すぎ、ナッツはなんとかクリアできるかもしれないものの、日常生活そのままでナッツを追加すれば体重増加になる。

「日本人ではお米に偏ることを避け、大豆製品、果物、魚を食べ、牛乳、卵は適度に取る。うまみや香りを活用して塩分量を減らす。調理の工程は少なめに旬の食材、つまりは安くて栄養価が高いものを大皿でどんと盛るより小皿料理で取る」

 運動療法は、有酸素運動と筋トレを組み合わせることが理想的。

「有酸素運動は、ジムに行って頑張るようなのを想像する方もいますが、早歩きで十分です。週150分が目安です」

 短時間で楽しみながらできる有酸素運動・筋トレがユーチューブに多数アップされているので、利用するのも手。

 ちなみに、記者自身がよく活用しているのが「MARINESS Program」。3分で終わるものもあるので、出張や旅行時にも、ホテルでユーチューブを見ながらトレーニングしている。

 加えて、専用のセンサーを装着して皮下のグルコース値を連続測定する持続グルコースモニターを使うと、血糖値の変動や夜間の低血糖の有無を知ることができ、よりよい血糖管理につながる。インスリン療法を受けている糖尿病患者なら保険適用となる。

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