五十肩を徹底解剖する

「五十肩」とは中高年の「肩が痛い」をひっくるめた総称である

写真はイメージ
写真はイメージ

 肩の専門外来には「近所の医者で五十肩と言われたが治らない」「五十肩ではなく腱板断裂ではないか」という患者さんが多数訪れます。

 患者さんも医者も、誰もが何げなく使う「五十肩」。中高年の代表的な肩痛の原因となる「腱板断裂」「石灰沈着性腱板炎」「凍結肩」「機能的な肩の障害」と、どのような関係になるのでしょうか。

 別の例えで考えてみます。

「咳が出る」「体調が悪い。熱も出た」と言われたら、とりあえず「風邪」と考えますね。同様に「五十肩」も、実は中高年の「肩が痛い・動かせない」ものを単にひっくるめた総称なのです。正確には病名ではないのですね。

 それでも、発症間もない頃ならたとえ「風邪」や「五十肩」でも腑に落ちるものです。しかし、咳が3カ月続く人が「風邪」と言われても普通は納得いきません。「咳」の理由として、ぜんそくだ、肺炎だ、結核だなどと原因を突き止め納得いく病名をつけてほしいものです。

 長引く肩の痛みでも、腱板の断裂部分や腱板に付いた石灰を検査結果として示してもらうと、「五十肩」から離れて「腱板断裂」「石灰沈着性腱板炎」という病名がスッと頭に入ります。

 一方、「凍結肩」は一見痛みと可動制限だけで、検査にも写らないので前述した総称としての「五十肩」の特徴と類似し混同されているのが実情です。しかし「凍結肩」の方が重篤ですし、病気を理解するには別物として考えたほうがよいでしょう。

 また中高年の体の衰えやバランスの乱れから生じた「機能的な肩の障害」を理解するには、肩の動きを身体運動のひとつとして包括的に考えねばなりません。病気を分析的に考える従来の診断法とは真逆な比較的新しい考え方で、多くの先生がまだ不慣れなのです。そこに「五十肩」という曖昧な診断名でも現状ではまだ通用する土壌があり、これを表す適切な病名がないことが今後の課題でもあると考えています。

 今回で「五十肩を徹底解剖」は終了となります。ご愛読ありがとうございました。(おわり)

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

関連記事