正月の「餅トラブル」と対処法 高齢者だけでなく若い人も注意

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 いよいよあと4日でお正月。最近は正月の定番料理のおせち料理は食べずに普段は口にしない高級肉などを楽しむ人が増えているようだが、餅だけは食べるという人も多い。その食べ方は雑煮や焼き餅などさまざまだが、餅を喉や腸に詰まらせて命を失うケースも多数報告されている。注意したい。北品川藤クリニック(東京・品川区)の石原藤樹院長に話を聞いた。

 2022年1月1~3日に都内で19人が餅を喉に詰まらせて救急搬送され、4人が死亡した。年代別では80代13人が最多で、次いで90代3人、100歳と70代と30代が1人ずつ。亡くなった4人は全員80代の女性だった。

「高齢の、特に女性がお餅を喉に詰まらせやすい理由は2つあります。ひとつは虫歯や歯周病、出産などで歯を失っている人が多いうえ、猫背で顎が上がったままの人が多く、噛む力が衰えているからです。しかも、舌の筋肉も脆弱で食べ物を喉に送る力が低下しています。唾液の分泌量が減っているため、のみ込む力も弱まります。要するに本人は噛んでいるつもりでも、実際はお餅をのみ込んでいるわけです。本来、食べ物をのみ込むときは、食べ物の通り道である食道が開いて空気の通り道である気道が閉じるのですが、気道のふたの部分に食べ物が詰め込まれていき、気道が開かなくなって窒息してしまうのです」

 それでも、咳をして詰まった餅を押し返すための防御反応ができればいいが、年を取るとその力も弱まるという。

「もうひとつの理由は、お餅の性質にあります。餅の元になる餅米はアミロペクチンでできていて、水や熱が加わり軟らかい状態のαでんぷんである間は消化に良いが、冷めてβでんぷんに変化すると途端に消化が悪くなることが知られています。このため、餅を口の中に入れて喉に送るまでに温度が低下するとお餅が喉の粘膜にくっついてはがれにくくなったり、硬くなってしまい、気道をふさいでしまうリスクが増すのです」

 最近は硬い食べ物を口にしない人が増えて、若い人でも餅を喉に詰まらせるケースがあるという。

「お餅のトラブルを回避するには、最初からのみ込みやすいように餅を細かく切って、よく噛んで食べることです。餅を食べる前にはお茶や汁物などで喉を潤しましょう。唾液がたくさん出せるように餅を食べる前にはおしゃべりをするなど口の準備運動をしておくのもいいと思います」

 万一、餅を喉に詰まらせた様子があれば、119番通報して救急車を呼び、消防署の職員から電話で応急処置の指導を受けることだ。実際、今年の正月に餅を喉に詰まらせた都内の82歳の男性は、そのおかげで餅を取り除き無事だった。

 ちなみに喉に詰まった異物を取る方法は「腹部突き上げ法」と「背部叩打法」がある。東京消防庁HPの電子学習室「命を救う~窒息の応急手当~」の動画によると、「腹部突き上げ法」は窒息している人の後ろに回り両手を脇から通し、一方の手で握りこぶしをつくり、へそとみぞおちの中間位の場所に当てる。こぶしをつくった手をもう一方の手で握り、寸時に斜め上に引き上げる。立って行う場合は相手の両足の間に片膝を入れて行う。この方法は体を密着して行わなければ効果はない。乳児や明らかに妊娠していると思われる女性には、「腹部突き上げ法」は実施してはいけない。腹部の内臓を傷つける可能性があるからだ。「背部叩打法」は窒息している人の後方から片手を脇の下に入れて、胸と下あご部分を支えて突き出しあごを反らせる。叩く位置は両側の肩甲骨の間で、手のひらの付け根部分で強く叩く、とある。

■腸閉塞で入院したり死に至るケースも

 また餅は、喉は無事に通過できたとしても腸に詰まることも少なくない。実際、「正月便秘」の中には餅を腸に詰まらせている人も多く、その中には腸閉塞で入院するケースもある。

「餅による腸閉塞で共通しているのは、よく噛まずにのみ込んだ場合です。お年寄りの場合は、入れ歯に餅がくっつくのを嫌って、入れ歯を外して餅を丸のみして腸に詰まるケースが多い。餅が温かく、変形しやすい状況では胃の出口を通過しますが、小腸内で温度が低くなると腸管壁にくっついて硬くなることで腸閉塞が起こると考えられています。餅を食べて1日以内に発症することが多いとされています」

 そもそも腸閉塞は何らかの原因で、腸の中で食べ物や消化液など内容物の流れが止まってしまう状態のこと。腸管が閉塞すると食べ物だけでなく消化液もたまってしまい、腸が膨れてくる。そのため腹痛、嘔吐、便秘、おならが出ない、お腹が張るという症状が現れる。腸管に消化液がたまったままだと脱水や電解質異常が現れ、重篤だとショック状態や意識障害を起こし、死に至ることもある。

 おめでたいお正月だからこそ、食べ物によるアクシデントには注意したい。

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