「正月ボケ」から立ち直る方法 時間栄養学の専門家が教える

朝食はしっかりとる
朝食はしっかりとる

 今日から仕事始め。正月気分を抜いて、普段の生活に戻らなければ、と思っているのに、なんだか体がスッキリしない……という人も多いのではないか。いわゆる正月ボケだが、それを解消するには、その原因を知り、的確な対策を取ることが重要だ。早稲田大学時間栄養学研究所招聘研究員で愛国学園短期大学非常勤講師の古谷彰子氏に聞いた。

「正月ボケは、年末年始の暴飲暴食による食べ疲れ・飲み疲れや運動不足に加え、帰省や旅行に伴う疲労など理由はさまざま考えられますが、原因は『ソーシャルジェットラグ』かもしれません」

 ソーシャルジェットラグとは聞きなれない言葉だが、仕事や学校、家事など社会的制約がある平日の睡眠と、制約がない休日の睡眠との差によって引き起こされる平日と休日の就寝・起床リズムのズレのことをいう。

「よく勘違いされますが、休日の就寝・起床時間が本来、自分自身が持っている体内時計の形です。しかし、平日と休日が違うリズムの人は、平日の仕事や学校、家事のために無理に朝起きている。それは日本にいながら、時差ボケのような症状を起こしている状態なのです。だから、休み明けは体がだるいのです」

 ヒトは本来、24時間より少し長い生体リズムを刻んでおり、それを24時間にリセットして生活している。そのためにヒトの体内には時間のリズムを刻むメカニズムがあり、1日単位で調整している。このシステムが体内時計で、それを形づくっているのが体内に数多く存在する時計遺伝子だ。脳の視交叉上核と呼ばれる場所に光の刺激などで動き出す親時計があり、内臓や血液などの末梢組織にそれぞれの子時計が機能している。この時計群にズレが起きることで、睡眠障害、うつ病、肥満、糖尿病、がん、アレルギーなどのさまざまな疾患につながることがわかっている。

「体が本来持っているリズムの赴くままに生活していた年末年始と、同じようなリズムで休み明け後も生活を続けていけるのであれば、それがベストです。しかし、現実には仕事や学校に合わせた生活をしなければなりません。ですから、いくら年末年始のお休みの間に十分寝て、休んだと感じていても、仕事や学校、家事といった社会的制約のある生活リズムが始まれば、自身が本来持っている体内リズムが乱れ、日中に眠くなったり、眠りたい時間に寝られなくなったりするのです」

■週末に体内時計を戻す

 こうしたソーシャルジェットラグの影響は大したことはない、と思う人もいるかもしれない。しかし、1週間のうち休日の2日間だけ本来の自分の体内時計で過ごし、普段より遅い起床時間にすると、体内時計が30~45分ほど遅れることが複数の研究で明らかになっている。その影響は翌週の前半まで続き、日中の眠気や疲労感を引きずるといわれる。まして、年末年始の1週間、朝寝坊を続けていれば、簡単に元に戻すのは難しい。

「ソーシャルジェットラグを放っておくと、軽い場合でも肥満やメタボになりやすいことが報告されており、認知機能や学校成績の低下につながることがわかっています。これを解消するには、しばらくの間、週末も、平日と同じような時間に起きて就寝することを心がけることです。そのうえで、①起床後、速やかに太陽光を浴びて親時計を動かす②食事の刺激で体内時計を目覚めさせるため朝食をしっかり取る③午後早めの眠気は正常な体内リズムなので30分以内の昼寝をする④定期的に軽めな運動をする⑤就寝の1時間半前にはスマホやパソコンのスイッチを切り、光刺激を減らす⑥お酒、喫煙、カフェイン入りの飲食を控える⑦照明を落とし、午後11時台には就寝するーーなどに努める必要があります。特に②の朝食は重要です。光の刺激で親時計をリセットした後に体内のさまざまな臓器にある末梢時計は朝食の刺激でリセットされるからです。実際、朝食を食べない人は睡眠と覚醒のリズムが乱れやすいことが報告されています」

 古谷氏によると朝食もただ食べればいいというものではなく、何を食べるかによってリセット力が変わってくるという。

「ご飯やパンなどの炭水化物に、肉、卵、大豆などのタンパク質。中でも体内時計を動かしやすい魚(特にツナ)はおすすめです。また、ゴボウなどに含まれるイヌリンと呼ばれる水溶性食物繊維もよいでしょう。これらを一緒に取ることでリセット力が高まり、正月ボケ解消を促進させます。また、朝食の定番である納豆も積極的に取りたい食品です。豊富で良質なタンパク質を含む納豆は朝のタンパク質不足を補い、サルコペニア対策にもなることが期待されています。しかも、腸内細菌の餌になり、有用な働きをすることもわかっています。セカンドミール効果といって朝食で取った効果が、昼食、夕食にも続くことも報告されています」

 今年はうさぎ年。飛躍の年にするには体内時計の乱れを正し、正月ボケを解消することだ。

関連記事