名医が答える病気と体の悩み

認知症の非薬物的療法にはどのような効果があるのか?

昔の写真を見ながら会話するのもいい(写真はイメージ)
昔の写真を見ながら会話するのもいい(写真はイメージ)

 認知症の患者さんは、生活環境や対人関係による不快な刺激が抑うつ、せん妄、攻撃、不眠、徘徊(はいかい)などの症状に強く現れます。介護者は、患者さん本人や取り巻く環境を見直し、徘徊などの行動や心理症状の原因となる環境要因を取り除く必要があります。

 そのひとつとして、非薬物的療法があります。薬物を用いないリハビリテーションや心理療法などのアプローチで、「回想法」「音楽療法」「運動療法」が知られています。

「回想法」とは、過去の記憶を呼び起こして脳に刺激を与えることで、認知症の進行抑制が期待されます。患者さんは直近の記憶は失われますが、長期記憶は残っていますから、子供の頃の思い出や、学生時代、会社員時代のエピソードを写真や思い出の品などを見ながら会話するといいでしょう。介護者は患者さんの話を否定せずに本人が言いたいことを楽しく話せるよう心掛けてください。これによって認知機能テストの結果が改善するわけではありませんが、うつ状態になっている気分を上げる効果も認められます。

「音楽療法」は、音楽を聴いたり楽器を演奏したり歌う行為を通して、リラックス作用をもたらすアプローチです。認知症患者さんが音楽を楽しむ能力は最後まで保たれるといわれています。高齢者施設の顔見知りメンバーで一緒に歌ったり楽器を奏でることで、気分が高揚し、社会性も身に付きます。イライラや幻覚などによるストレスが軽減し、攻撃的な行動や集中力低下の改善が期待されます。患者さんが若い頃に好んでいた歌謡曲のCDを流したり、楽器を演奏するならタンバリンやマラカスといった振るだけで簡単に使えるものがいいでしょう。

「運動療法」は、運動機能を維持するために最も必要なアプローチです。有酸素運動のウオーキングやストレッチ以外に「ながら作業」がおすすめです。たとえば、足踏みしながらクイズに答えたり、椅子に座る↓腰を上げるを繰り返しながらしりとりゲームをします。筋力の低下を予防しながら、脳の血流も促すのです。とくに軽度の認知症患者さんの症状抑制や発症前の予防にも効果が期待されています。オーディオブックを聞き流しながら家事やウオーキングをするのもいいでしょう。

 非薬物的療法は、完全に進行が進んでしまうと効果が期待できないため、診断前や初期・中期の段階で、主に予防医療として採用されています。

▽望月瑠璃子(もちづき・るりこ)兵庫医科大学卒業。大阪警察病院、大阪大学医学部付属病院、住友病院勤務、医学研究所北野病院などを経て、現在はルリクリニック院長を務める。日本内科学会専門医、抗加齢医学専門医ほか。

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