記者(48)は、この二十数年、休肝日なし。毎晩、家人と2人、ワインを2本軽く空けている。健康診断の数値は正常だが、心配なのが認知症だ。
弊紙で月曜掲載の連載「認知症治療 第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う」を担当している。認知症の知識が深まるにつれ、アルコールがいかに発症リスクを上げるか、わかってきた。一説には、認知症においてアルコールは、たばこよりも害だという。
WHO(世界保健機関)が2019年に発表した「認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン」には推奨する12項目の対策が載っているが、その1つがアルコール。国内外の複数の研究で飲酒が脳にダメージを与えることが証明されている。
「認知症予防には『アルコール摂取減』が必須」と思いながらも、酒ありきの夕食が習慣化しており、行動に踏み出せずにいた。
そんな時に知ったのが脳の「海馬」の状態をチェックできる「BrainSuite(ブレインスイート)」だ。
海馬は記憶力や判断力をつかさどる部位で、海馬の萎縮が、アルツハイマー型認知症と関連していることが明らかになっている。海馬は加齢でも萎縮するが、睡眠不足や運動不足、食事などの生活習慣によって萎縮のスピードが変わる。
開発に携わった東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授が言う。
「ブレインスイートは海馬の体積や微細な萎縮程度を精密に解析するプログラムです。海馬は何十年もかけてゆっくりと萎縮していく。しかし小さく複雑な構造をしているため、その微細な萎縮を目視で確認するには限度があります。そこでブレインスイートでは、8年間における東北大学加齢医学研究所での脳医学研究の成果に基づき、2万5000の脳画像をもとに徹底して学習した脳AI(人工知能)を用いて、海馬の状態を解析しています」
脳の健康をチェックする検査に、脳ドックがある。しかし一般的な脳ドックでは、脳腫瘍や脳出血、脳動脈瘤などの有無は調べられるが、海馬の微細な萎縮はわかりづらい。一方、ブレインスイートでは認知機能が低下する「前」に海馬の微細な萎縮がわかる。
「海馬の萎縮が記憶力低下などの症状として現れてくるのは、萎縮がかなり進んでから。微細な萎縮では、その変化は自覚できません。しかし早い段階から自分の海馬の状態を知り、生活習慣を改善することで、海馬の体積を増加させられます」
■同年齢の平均より「下」の結果に…
ブレインスイートの流れはこうだ。
このプログラムを導入している医療機関(全国に複数ある)で頭部MRI画像の撮影を受け、別途、生活習慣などについてのオンライン問診票に入力。さらに集中力や記憶力を調べるオンラインテスト「のうKNOW」を受ける。結果はすぐにメールで送られてくる。
記者の検査結果は<集中力・記憶力スコア>は「正常な状態」。<認知機能を低下させるリスクとなる項目>として運動や食事などはいずれも「正常」だが、唯一<飲酒>が「加齢以上に認知機能の低下が進むリスクとなり得るポイント」というC判定だった。
ただ、これは想定内。
大ショックだったのは<海馬占有率>(脳全体の海馬の占める割合)。同性・同年齢の人との比較では「平均より下」。
現在の生活を続けると10年後には海馬占有率がさらに下がっていることがグラフで一目瞭然だった。
「行動変容は簡単ではない。きっかけが必要で、それが『見える化』。自分の状況を客観視することで行動変容につなげられる」(瀧靖之教授)
まさに前述の通り、「認知症になるかも」という不安のみで行動が伴わなかったが、結果が届いて以降は「今、変えねば」という考えになり、「(酒を)もう1杯」に歯止めがかかるようになった。かつてよりも意識的に酒量を減らせられるようになった。
海馬の状態が今後どう変化するか、また調べたい。
記者は「アルコール」だったが、人によっての認知症リスク要因は異なる。今年の生活習慣改善のきっかけに、試しに受けてはどうか。
なお、ブレインスイートは単独受診で税込み1万4300円から(医療機関で異なる)。