幸福ホルモン「オキシトシン」とは? ストレス、肥満、発達障害にも効果ありと注目

幸福ホルモン「オキシトシン」を増やしてストレス社会を乗り切る
幸福ホルモン「オキシトシン」を増やしてストレス社会を乗り切る(C)日刊ゲンダイ

 経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国際調査によれば、日本のうつ病・うつ状態の人の割合は2020年時点で17.3%。13年の調査では7.9%だった。コロナ、経済不況、物価高……とメンタル不調を増長する要素が多い現状で、注目を集めているのが幸福ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」だ。身体心理学者である桜美林大学・山口創教授に聞いた。

 オキシトシンは、脳内で分泌される神経伝達物質のひとつ。特定の刺激で脳の視床下部で作られ、下垂体に移動し、血液に乗って全身をめぐり、また下垂体から中枢神経など脳のほかの部位に直接届けられる。

 オキシトシンの存在は19世紀末からすでに知られていたが、近年研究が進み、さまざまな作用が報告されている。

 たとえば、ストレスに対する効果だ。

「ストレスを感じると、脳の視床下部から下垂体、腎臓にある副腎へと信号が伝わり、コルチゾールというホルモンが分泌されます。これをHPA軸といい、ストレスによる刺激から一時的に体を守る働きがありますが、出続けると血糖値上昇、ナチュラルキラー細胞の活動抑制による免疫力低下、記憶に関する脳の海馬の萎縮などを招きます。だからできる限り早くコルチゾールの分泌を抑える必要がある。オキシトシンはHPA軸を抑制する作用があるので、結果的にコルチゾールがだらだら出続けることも抑えられるのです」

■内臓脂肪を15~20%減少

 コロナ禍で太った人も多いだろう。オキシトシンは肥満対策にも効果が期待できる。

 福島県立医科大学は動物実験で抗肥満効果の有効性を証明。

「発表によると、太っているほど抗肥満効果が高く、メタボの最大の増悪因子である内臓脂肪を15~20%減少させるとのこと。オキシトシンの抗肥満効果の研究は動物実験で複数出ており、人間を対象にしたものも、数は少ないもののあります」 また、名古屋大学医学部・大学院医学系研究科らは、オキシトシンが脂肪を燃やすための脳の神経回路を発見している。

 オキシトシンは、対人関係が苦手・こだわりが強いといった特徴を持つ発達障害、自閉症スペクトラム障害の治療薬としても有望視されている。

「自閉症スペクトラム障害の人は、脳内でオキシトシンを作る遺伝子に欠損があることがわかっています。オキシトシンを人工的に作り鼻から噴霧すると、鼻の粘膜を通って脳内に入り、コミュニケーションに関係している部分に作用して、コミュニケーション障害が改善する。将来的には自閉症の治療薬になるのではないかと期待されているのです」

 薬といえば、オキシトシンは陣痛促進剤として、かなり以前から使われている。このオキシトシン、人やペットとのふれあい、自分で自分を抱きしめる、他人への親切・優しさといった刺激で分泌が促進されることが明らかになっている。さらに最近、食もオキシトシンの分泌を促進することが研究(非盲検クロスオーバー比較試験)で証明された。山口教授と食品メーカーのカルビーが、人間を対象とした研究を行ったのだ。

 被験者(18~37歳の健康な女性12人)に朝食としてフルーツグラノーラ、ご飯、パン、オートミールを食べてもらい、唾液のオキシトシン量を測定し比較。すると、いずれも“何も食べない”よりは分泌量が多く、その中で最もオキシトシン分泌量が高かったのがフルーツグラノーラだった。

「オキシトシンの分泌量は、ペットの犬をなでたり触れ合ったりしたときの上昇率とほぼ同じ。海外の研究で味覚や嗅覚などに働きかけると、脳の反応が高いという結果が発表されており、フルーツグラノーラがオキシトシンの分泌に対して最も強く作用したのも、適度な甘さと、香ばしい香りがオキシトシン分泌に寄与したと考えられます。オキシトシンを指標として数値化し、客観的に比較して食との関係を検討した研究としては、恐らくこれが初めてです」

 朝食で甘く香りのあるものを食べ、人と交流する--。オキシトシンを増やす生活で、ストレス社会を乗り切ろう。

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